About the Lace

レースの種類  レースの歴史  レースの博物館

レースの素材  レースの道具  レースの魅力  参考サイト

レースの種類

 一口にレースと言っても、技法別に呼称があります。素材別には、糸だけで形を作るレースと布を基礎にしたレースとに分けることができます。

・糸で形作るレース

 このサイトで主に紹介しているのは「タティングレース(Tatting Lace)」というもので、英語では、単に「Tatting」と表記されることが多いようです。

 かぎ針で編むレース(1970年代には、ガーゼのハンカチなどの縁取りを編む人をよくみかけましたよね)は、「クロシェレース(Crochet Lace)」と呼ばれています。今のところ、日本で単に「レース編み」と言えば、クロシェのことです。クロシェの技法に含まれるものには、かっちりとした長編みを連続させて編む「ブリューゲルレース」や、立体的な花や木の実のモチーフが特徴的な「アイリッシュレース」などがあります。ギャラリーに掲載されているボレロは、クロシェの技法で編みました。

 人気急上昇中なのが「ボビンレース(Bobbin Lace)」で、これは編むと言うよりも織る、という感じの技法で作られます。デザインの自由度が高いのが魅力なのですが、場所を取る上に織り方のパターンが数多くあって、難しそう。私はまだ手を出しかねています。

 毛糸の棒針編みに相当するのが「クンストレース(Nitting Lace)」で、木の葉のパターンなどがよく使われています。編み機で編めば、カーテンなどの大物も楽に作れます。私が母から譲り受けたレース編みの本には、クンストレースの羽織などの変わり種が載っていました。

・布を基礎にしたレース

 ボビンレースと並んでヨーロッパのレースの主流だったのは「ニードルレース」。限り無く洋裁技術に近いものです。見た目は、ボビンレースをもっと細かくして、刺繍の要素を混ぜたような感じです。普通の生地の他、チュールなどを土台にしたものも多いです。刺繍にも応用できそうな様々な技法が本には掲載されています。

 スワトウ刺繍に代表される、布に自在に縁かがりを施し、余分な布を切り落として、空間にさらに糸を渡しながら仕上げるのが「カットワーク」。布を切らない部分にも刺繍が施され、華やかな仕上がりになります。

 布の一定部分の横糸か縦糸を抜いて、残った糸をスモッキングの要領で止めつけていく技法は「ドロンワーク」です。できあがりは、布と同色のレースのインサーションを挟んだように見えます。

 「バテンレース」は既に織りあがっているリボンを縫い合わせて作るレース。リボンを機械織りにすると効率良く安価で作れるため、工業的にも大量生産されています。ダイソーなどにも、この技法で作られたテーブルセンターのようなものがよく売られていますね。


レースの歴史

 レース編みがいつどこで始まったのかは定かではないそうです。確実に年代を追えるのは15世紀以後だとかで、それ以前にことは資料も作品も道具もほとんど残っていないのでわからないのだとか。15世紀以後は、ベルギーなどヨーロッパで非常に盛んになり、女子修道院などで、その技術が伝えられたと言われています。

 ところで、現存する世界最古のレースではないかと言われるレース作品が、なんと日本にあるのを御存知ですか?
 奈良文化財研究所のサイトの成果のコンテンツ中、学報の14冊目に唐招提寺に所蔵されているレースに関する学術的考察が掲載されています。編み方も復元されているそうですが、現存するレースとは違う手法らしいです。
 このサイトでは画像を見られないのが残念ですが、正式名称である「方円彩糸花網」で検索すると、昭和女子大の博物館サイトで、過去の展示品として画像を見る事ができます。もちろん国宝なのでおいそれとは実物を見られないようです。

 このレースは残念ながら日本の製品ではありません。日本でレースが作られるようになるのは明治以後のことです。タティングレースが流行ったのも明治・大正期のことで、生田光子さんの本などには、当時のシャトルの写真なども掲載されています。


レースの博物館

日本国内
・ポォワンドゥアランス:富山県小矢部市八講田231 Tel:0766-69-7030
・板橋アンティックドール美術館:699-5604 島根県鹿足郡津和野町森村 Tel:0856-72-3110 Fax:0856-72-2000
・三滝アンティックレース館(要予約):733-0802 広島県広島市西区三滝本町1-11-27電話 Tel:082-239-3563

 このページを改訂する前に、那須にもレースの美術館がある、と書いたのですが、ネットで改めて検索しなおすと、どこにも該当するものがありません。伊豆高原や河口湖周辺にもありそうな気がしますが、検索した限りではまだ見つけていません。もし情報を持っていらっしゃる方がいらしたら、ご一報いただけますと幸いです。

海外
 こちらは、ヨーロッパを中心に膨大な数があります。私が実際に行った、ロンドンのVictria&Albert Museum(以下、V&A)について御紹介しましょう。

 V&Aはその名の通り、ヴィクトリア女王夫妻のコレクションが原点となっている博物館です。収集テーマは「古今東西の美しい物」という、イギリスらしい欲張りぶり。
 レースは、その膨大な所蔵品のほんの一部に過ぎないのですが、ヨーロッパ各地で産業レースの主流を占めていたニードルレースとボビンレースはもちろんのこと、クンストレースやタティングレースのコレクションもあり、年代も充実しています。
 レースの展示室には刺繍や織物の展示もあり、こちらも大変素晴らしいものばかりです。洋服のコレクションも、中世のドレスからVivian Westwoodのドレスまで幅広い年代が集められていて、こちらも大変に参考になります。楽器のコレクションもお勧めです。
 とても1日で全部を見る事は無理なので、見学前には案内をよく読んで計画的に回りましょう。大英博物館といい、ロンドンの博物館の規模は常識外れなものなのです。

 ベルギーは非常にレース産業が盛んだったこともあり、有名なレースの博物館があるようです。こちらも、もし情報をおもちの方がいらしたら、御一報くだされば情報を掲載します。


レースの素材

 布から作るレースを除き、レースの主な素材は糸。ミシン糸のような細いものから、毛糸のようなものまで、柔らかさとある程度の強度があればどんな糸でもレースにすることができます。

・レース糸
 レース糸と銘打たれている商品は、綿100%のものがほとんどです。タティングにもクロシェにも、非常に扱いやすい種類です。ただし、タティングの場合には、安物の糸は避けるほうがいいです。なぜかというと、良質な糸の撚りは糸の表面のでこぼこがほとんど気にならないのですが、安い糸の撚りはロープ状で、ひっかかりが大きいからです。編む過程で糸同志が擦れ合うタティングには、ひっかかる糸は不向きです。
 一流メーカーの良質なレース糸は、長繊維の良質な綿花を使用しているためか、自然な光沢があり、撚り糸なのに引っ掛かりなどもありません。レース編みが昔(昭和30〜40年代)ほど流行らなくなったためか、普通の手芸店にあるのは、40番か18番ばかりというのは寂しいですね。
 やや値段は高いのですが、DMCのレース糸は同じ木綿とは思えないほどの光沢と丈夫さがあります。中でも、80番の糸が5gの巻きで売られている「Special Dantel」は、色数も豊富でタティング向きです。

・絹糸
 ボタンホールを作るために使う穴糸は、日本メーカーのレース糸の規格で言うと、ちょうど40番くらいに相当します。高価ですが、しっかりと編んでいきたいタティングレースには最適の素材です。仕上がりも、絹独特の発色と光沢が美しく、とても見栄えがします。初心者にこそ使っていただきたい素材です。
 手縫い糸、ミシン糸など細い糸を使うと、繊細で美しい作品が編めます。糊付けをしなくても、アイロンをかけるだけでしゃっきり仕上がるのも絹の良いところです。絹のミシン糸は表面が平らなのですが、手縫い糸になると、撚ってあるコード数が少ないためか、やや編みにくい感じはします。その分、ふんわりとした柔らかな優しい風合いも生まれるのが手縫い糸の特徴です。

・ポリエステル糸
 絹糸の代替品、という感じで各種のサイズがあります。タティングレースに使うには、編んでいるときはいいのですが、ほどけやすいので糸の始末には気を遣います。安価なので、練習や新たなモチーフを考える時に使うといいかもしれません。クロシェには使ったことがありませんが、滑りやすい糸なので、編み目を均等に揃えるのが難しいと思います。ただ、太口のミシン糸や穴糸の場合は、ポリエステルでもかなり表面の摩擦力が増すので、綿のレース糸を同じように編むことができます。他の種類と比べて色がとても豊富で、入手しやすいのも魅力です。

・木綿糸(手縫い糸、ミシン糸)
 メーカーによるのかもしれませんが、タティングレースを編むと、糸が毛羽立つので、少々編みにくい感じがします。光沢がないので、カントリー系の素朴さを表現できます。クロシェの場合は、日本では入手が難しい細いレース糸の代わりに使えると思います。ただし、ほとんどの縫い糸はレース糸と撚りが逆なので、糸割れには注意が必要です(糸の撚りについてはCozy Time Cozy Areaさんを御覧下さい)。

・ニット用糸
 弾力がある糸は、タティングには不向きです。クロシェは、糸に弾力があっても問題がないし、着るものにするなら、ある程度の太さの糸で編むほうが、はかどります。ざっくりした糸で、かぎ針編みの花モチーフなどを作るのも楽しいですよ。

・フロス
 撚りの入っていない糸のことで、絹のかま糸などが相当します。すべりが良く光沢も良いので、雪の結晶モチーフなどを編むと雰囲気が出ると思います。歯科用デンタルフロスなら薬局などで簡単に手に入ります。

・麻糸
 ボビンレース用素材。張りがあり丈夫なので、細い糸を絡めるボビンレースに最適の素材です。麻は洗えば洗うほど白く美しくなる特徴もあり、独特の光沢と風合いが魅力的な素材でもあります。


レースの道具

 どんなレースを編むのかによって、使う道具は違います。

 このサイトで主に紹介しているタティングレースには「シャトル」という道具を使います。タティングの方法は、他に縫い針のような針で編むニードルタティング、かぎ針で編むフックタティングがあります。
 どれも、結果としてできあがる物はまったく同じですが、ニードルやフックを使うと、道具が通る分だけ、ふんわりとした仕上がりになります。シャトルが主流になっている背景には、他の手法よりも糸を長く巻いておけるから無駄や糸始末の手間が減ること、どんなサイズの糸でも編めることなど、多くの利点があると思います。
 歴史的には、材質も形も実にさまざまなシャトルが考案され、アンティークとして高値で取引されているものもありますが、現在は安価なプラスチック製が主流です。シャトルの詳細はシャトルのページを御覧下さい。

 クロシェレースはかぎ針を使います。かぎ針は糸のサイズに合っているものを使います。全体がステンレスで出来ている安価なものから、角や木などの天然素材でできた柄がついているものもあります。

 ボビンレースには、クッサン(おそらくクッションのフランス語読みでしょう)と呼ばれる、アイロン台のような土台、レースのデザインを決めるピン、糸を巻きつけるボビンを使います。

 ヘアピンレースには、U字型のヘアピンのようなものを使います。こちらの詳細は、「らぶり〜なう」のサイトでどうぞ。トップの右下の方にコンテンツがあります。

 バテンレースはテープを縫いとめていくための針と、デザインを決めるピンが使われます。同じく針とピンを使うのがニードルレースです。


レースの魅力

 1本の糸が面になったり立体になったり。ただの布が華麗な変身をみせたり。
 レースに限らず、編む行為の楽しさは造型の楽しさです。
 中でもレースの魅力は、その繊細な美しさにあります。加えて、完成までとても時間がかかること、鑑真和上の時代から遥かに受け継がれてきたその歴史にも、私は多いに魅せられています。
 V&Aの、ほの暗い照明の元で見た、それは繊細なレースの数々。明かりも充分にない時代に、修道院や農村で丹念に編まれたレースは、貴族達の衣装を華やかに彩ったことでしょう。上流階級の女性のたしなみとして編まれたレースは、瀟洒なお屋敷や家具調度の中で楽しいひとときを演出したのでしょうか。そして遠い遠い遥かな昔、仏像と共に海を渡ってきたレースには、どのような祈りや願いが込められていたのでしょうか。

 糸を手に取って、悠久の時を楽しんでみませんか?


このページを作る際に参考にしたサイト

奈良文化財研究所
昭和女子大
近沢レース
らぶり〜なう
板橋アンティックドール美術館
SNOWGOOSE
余談
 「タティング」という表記ですが、私は最初に買った本が「タッチングレース」だったので、実は少々違和感を感じています。聖光院有彩さんの本では、「タティング(tatting)」「ピコ(picot)」と、あくまでも英語の発音に忠実に記載されていますので、そういう流れなのでしょう。(でも、それを言うなら、シャトルも「シャトゥ」になると思うのだけど。)
 日本人の耳に馴染むように英語音をカタカナに置き換えることは当たり前にされていることだし、そもそも母音の数が違うのだから、カタカナでは正確な発音の表記は無理。となれば、従来使われて来たと思われる「タッチング」「ピコット」の方がわかりやすい感じも少しします。
 と、言いつつ、昨今は「タティング」が主流らしいので、このサイトでは、「Tatting」に限って、「タティング」と表記しています。いっそのこと、横文字表記の方がすっきりするかもしれませんね。

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