〜 海 辺 に て
− 砂浜の足跡 −

第1章 めざめ
遠くでなにかの音がする。
これは、電話か? もしかしたら、風鈴?
それとも誰かが呼んでいるのか?

とつぜん意識が戻り、はっとして目が覚める。
鳴っていたのは目覚し時計だった。
「なんだ…」ちょっとがっかりしながら、いつもより少し強めに時計の頭をひっぱたく。
「うっせーなーぁ。うぅぅぅんん」
時計を止めてから数分はベッドの中でしばらくぼんやりしている。これは俺のいつもの癖だ。
時計を手にとり時間を見ると7時半だった。

もう起きなければいけない時間だった。
俺は仕方なくベッドからたちあがるとおもいっきり伸びをした。

ブラインドの隙間からまぶしい光が射し込んでくる。
窓をあけて空気を入れ替え、さあ、行動開始!

「目覚し時計だったのか。さくらからの電話だったらよかったのに」

そんなことを考えながらバスルームへ向かう。
シャワーのコックをひねると、勢いよく水がふきだしてきた。
頭から大量の水を浴びながら、気持ちは自然に今までのことをふりかえっていく。

「もう1年半にもなるんだ。長かったのか、短かったのか」

思えば、さくらとの出会いは、とても不思議なものだった。
それまでの俺には想像もできないような形で出会ったのだから…。

それからの毎日は本当に楽しい。
自分はとても幸せだと思う。
もちろんたくさんけんかもしたが、やっぱり俺にはあいつしかいないのだ。
今は心からそう思える。

"きゅっ!"
蛇口を閉める
とこんな音がした。

「・・・ったく、ボロアパートはこれだから困る」

急いで体をふいて歯を磨き、髪に残ったしずくを乱暴に落とす。
バスルームを出てもう一度時計を見ると、7時50分になっていた。
「ぴったりじゃん!」
いつも通りのタイミングに俺は満足し、冷蔵庫からオレンジジュースを出してコップに注ぐ。
冷たいジュースが乾いた喉に沁みこんでいく。
あっと言う間に2杯のジュースを飲み干し、着替えにとりかかる。
今日は、黄色のシャツにジーンズ。 いつも、服装にはそれほど気を遣わない。
田舎にきてからというもの、周りの目をほとんど気にせずにすむからだろうと自分では思っている。
かと言って、都会に行ったとしても着る服が変わるわけでもないのだが。

もう一度時刻を確かめながら腕時計をはめ、財布と鍵を持ってかばんを肩にかける。

「よし!」

自分に気合いをいれて、俺は部屋をあとにした。


第2章 始 動
学校までは車で10分。 信号にひっかからなければ5分でつく。

家から大学までの間に信号は5つあり、その間に注意することは、周りの車、人、そして、リス。
リスが一番やっかいで、突然車の前に平気でとびだしてきてはドライバーをはらはらさせる。

運よく海都はまだリスを轢いたことはないのだが、 死骸は何度も見たことがある。
小動物の死骸は、しばらくの間かたずけられることもなく 、路上に放置されたままだ。
当然、何台もの車にふまれることになる。 そして、雨が降ればその雨に流されていつの間にか消えてゆく。 いつもその繰り返しだ。

さくらが見たらなんと言うだろう?
きっとすぐに車を止めさせて、ひとしきり泣いたあと、リスの墓を作りたがるに違いない。
今にも泣きそうな声で、 “かわいそう。。。”と小さな声でつぶやき、 ねぇなんとかしてあげて。。とでも言いたげに俺の顔を見るだろう。
あいつのそういう顔を早く見たい。 なんなら、大学なんてやめて。。。。。

“だめだろ。。”

非現実的で勝手な願望ばかりがつい先行してしまう。いつものことなのだが。

そんなことを考えている内にキャンパスについてしまった。
少し早いので適当に散歩する。

木立が強い陽射しを受けてきらめいている。
まだ夏が抜けきっていない、青々とした葉は大好きだ。
もしかしたら、秋の紅葉以上に好きかもしれない。
“夏さいこーう!” と叫んでみる。周りに人が歩いていたが、そんなことには頓着なしだ。
彼らはこちらを振り返って、 なんだ、あいつ? 変な奴だ。。なんて思っているのだろう。
“はははは。。。ばーか” 自分のくだらない行動がおかしく思えてくる。

“海都、おはよう!”
突然後ろから声をかけられ、振りかえると達哉がそこにいた。

“おぉぉ!びっくりしたぁ。。おはよぅ!”
“早いね。クラス?”
“おう。おまえは?”
“おれはちょっとラボに行かないと。。まだ宿題終わってないんだよね”
“そっかー、大変だね。ま、がんばってよ。おれもそろそろ行かないと”
“おぉ。。じゃあ、また後で。”
“ん、またねー。”

達哉は理工学科の4年で、俺と同期。 とても頭がよく、強烈な個性を持っている。

はじめてあいつにあったとき、おれは “うわっ、こいつ濃いなーぁ。” と、あきれてしまったくらいだ。
しかし控えめなところもあり、反面、大勢の中にでも上手に溶け込むことができる。 口ではなんだかんだ言っても、実はとても良い奴なのだ。
また、今晩あたりみんなでコーヒーでも飲みにいくのかな? それも悪くないな。 でも、その前にクラスだ。
そういえば、次の休みはいつなのだろう?

“お!まじ遅刻だ。やばっ!”

俺は急ぎ足で教室に向かった。


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