面白く、ない。
趙雲は、心のうちで、呟いた。































わいわいぎゃあぎゃあと、子供のはしゃぐ声。
同じ班員の、普段はさして気にもとめない声が、やけに苛立つ。


「馬超、煩い。うちの小学校の品位が問われるだろ」


だから趙雲は、不機嫌に、一番はしゃいでいる馬超へ文句を言った。
言われた馬超、ムッとした表情で、趙雲を振り返る。


「何だよ、今日遠足だぞ。遠足っつったら、騒いで遊ぶモンだろ!」


馬超が、言いながら趙雲を睨んだ。
雰囲気が、ほんの少し険悪になる。


「ふ・・・まぁいい。今日は喧嘩は無しだ」


だが、馬超は水筒からお茶を飲み、心を落ち着かせて、笑う。
普段の彼らしからぬ冷静さに、趙雲は肩透かしを食らった気分になった。


「なんつっても、ここはネズミーランド! 遊ばなきゃ損だからな!!」


喧嘩してるほうが、気が紛れて楽なのに。
と、趙雲は思ったが、口を噤んだ。
そもそも、趙雲だって、今日を楽しみにしていたのだ。


「でも、今日ってさぁ。先生は遊べないんだよねー。残念」


班員のひとりである尚香が、そんなことを言う。
馬超は、「そんなの気にしてたら楽しくないだろ」と、言うが。
趙雲は、その尚香の言葉で、更に気が重くなった。


「違うわよ。保健の劉備先生のこと」


その言葉に、趙雲は、「先生」と、呟く。
正しくは、先生の、卵。


「私、劉備先生と一緒に遊びたかったなぁ」


保健の、教育実習生。
にっこり笑う姿が、何ていうか、ずきゅん、と、きて。
遠足に同行する、と聞いて、趙雲はとても喜んだ。
喜んだ、のに。


「保健の先生は待機、って相場が決まってんだろー」


馬超によって改めて突きつけられた現実に、趙雲は泣きたくなった。
趙雲も、劉備と一緒に遊べたら、だなんて、思っていたのだ。
いや、それは職務として仕方ないとしよう。でも、問題は別にある。


「だって、曹操先生と一緒に待機だなんて、絶対危ないわよ!」


はい、大問題。
馬超も、思わず黙る。


「あーもう! 忘れろ!! 今日は遊ぶんだ!」


黙ったかと思えば怒鳴る馬超に引き摺られ、趙雲はネズミの国を回った。










一方。


「今時の小学校は、遠足も豪華だなぁ」


とか、そんなことを呟いている、劉備。
保健の先生は待機、のハズだったのだが。


「これは、黄忠校長も児童と一緒にはしゃいで腰痛めるよな」


という理由で、巡回の教師がひとり不足。
なので、手のあいている劉備が、代理を務めることとなった。


「このクソ校長。劉備との時間を邪魔しおって・・・」


そんな曹操の呟きが聞こえる待機場所をそそくさとあとにし、劉備は外へ出る。
どうにも保険医である曹操は、劉備との過激なスキンシップがお好きのようだ。
劉備からすれば、そのスキンシップはセクハラ以外の何物でもないが。


「えーっと、校長の巡回エリアは・・・お土産屋さんあたりか」


てくてくと、土産コーナー密集地へ歩いていく劉備。
そしてふと視線を上げ、目に入ったものに、心が奪われた。










相変わらず、趙雲は仏頂面をしていた。
だが、「私、劉備先生にお土産買うv」との尚香の言葉で、復活。
巡回も出来ないのなら、きっと退屈で仕方ないだろう。
何かお土産を渡せば、きっと花の咲くような笑顔を見せてくれるに違いない。


「何だお前。急に機嫌回復しやがって」


馬超のツッコミにも、趙雲は負けない。
子供の小遣いは知れているが、それでも何か、と。
微妙に、尚香と争うように、店に入る。


「お菓子・・・は、劉備先生のことだから、お裾分けとかしそうだな・・・」


やっぱりシャーペンあたりが妥当か、と、趙雲は店の中をぐるぐる回る。
そのとき、店の窓の外に見える、人だかりに気付いた。


「・・・マスコットのネズミか・・・」


キャラクターの着ぐるみが園内を闊歩するのは、珍しい図ではない。
視線を戻し、お土産選びを再開しようとした趙雲。
視線を戻していく最中。目に入った人影に、動きが、止まる。


「え!!?」


慌てて、外へ走り出た。
いるはずのない人物が、ひとり。
きらきらした目で、ネズミを。


「りゅぅび・・・せんせ・・・」


だってあいつ、ネズミじゃん。
四本指で、二足歩行のネズミじゃん。
それどころか、彼女までいるんだよ先生。
そんな目で見つめても、駄目だって!


「ネズミのくせに・・・!」


苛々むかむかメラメラと、趙雲の心が嫉妬に燃えた。
手を振るだけで、あんなに熱心に見つめてもらえるだなんて。
おのれネズミ。と、逆恨み甚だしいが、趙雲には関係ない。


「劉備先生!」


そいつ、彼女いるから、駄目だって! と。
趙雲は、そう伝えようとしたのだが。


「あ、趙雲。趙雲も一緒に写真を撮りたいのか?」


その声に振り向いた劉備が、にこやかにそう言って。
趙雲の背中を押し、ネズミの前に押し出そうとするからたまったもんじゃない。
何が悲しくて、趙雲の恋敵とのツーショットを撮らねばならないのだ。


「撮ってあげるよ。カメラは?」


持ってるけど、でも、と、言いさした趙雲。
ある考えに至って、劉備の手を引いた。


「先生も、一緒に」


言うが早いや、趙雲は近くにいた見物人にカメラを手渡した。
そのまま、正直近づきたくもない恋敵へと、劉備の手を引いて、走る。
そして、四本指で手招きしているネズミのもとへと到着。


「趙雲、私も一緒でいいのか?」


呟く劉備に、趙雲は「はい!」と元気良く返事をした。
そのふたりの間にネズミが割って入り、肩に手を回してきたのにはムッとしたが。
それでも趙雲は、カメラのシャッターを切る瞬間、笑顔を浮かべた。


「・・・なぁ、趙雲」


写真を撮ったあと、劉備が、かがんで趙雲に耳打ちする。
それだけで何かもう趙雲は昇天しそうだったが、頑張って耐えた。


「もし良かったら・・・さっきの写真、焼き増ししてくれないか?」


少し恥ずかしそうに、そんなことを言う劉備。


「今までこんなところに来たことがなくて。だから、その、記念に。な?」


思わず趙雲は劉備を凝視して、それでも、「勿論です!」と答える。
途端に、劉備は笑って、言った。


「最高のお土産が出来た。ありがとう」










そんな遠足帰りの、バスの中。
顔が緩みっ放しの趙雲を訝って、馬超や尚香が声をかけるも。


「遠足、万歳・・・」


と、うわ言のように呟く趙雲に、ついに傍観を決め込んだとか。













「珈琲が好き」の管理人、山本六花さまに捧げる壱万打祝い話。
趙雲×劉備で、趙雲が嫉妬してるもの、ということで、書いてみました。
が。なんか、こんなんですみません・・・。妄想全開のパラレルです。
趙雲の嫉妬相手も、別キャラにすればいいものを、あのネズミです。

いやあのですね。以前に六花さまから頂いた、乾杯の歌の劉備さんに合わせようかと・・・。
背景が、ネズミーランドのお城だったもので、つい(つい、じゃねぇよ)

こ、こんな作品になってしまいましたが、よろしければお受け取りくださいませ・・・!
サイト壱万打、おめでとうございます!


「妬」 ―やいたけれども―





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