明けましておめでとうございます。
よろしければ初詣など、その、俺と、あの、一緒に・・・。































歩きながら、趙雲は溜息をつく。
ポケットには、携帯。携帯には、未送信のメールが一通。


「新年だってのに、浮かない顔だな」


隣から声をかけられて、趙雲は顔を上げる。
声の主は、高校に通うために居候させてもらっている家の住人、公孫賛。
彼は、どこか楽しげに笑いながら、趙雲の肩を叩いた。


「そういやお前、さっきまで携帯と睨めっこしてたよな。それが原因か?」


この公孫賛、色恋沙汰に関しては、やたら経験豊富なせいか、やけに勘がいい。
世間では堅物で通っている趙雲が、実は片想いしているということも知っている。


「送るんなら、送っちまえよ。思い立ったが吉日だぞ」


ただ、その片想いの相手までは、知らないようだけれども。
趙雲は、ポケットの中の携帯を握り締めた。
よろしければ、初詣など、その、俺と、あの、一緒に・・・。
自分でも、頭の悪い文章だと思う。
メールで何をどもってるんだ、とも、思う。
けれど、言葉が浮かばない。


「その相手と初詣に行きたいなら、抜け出しちまえ」


どうせ、この人ごみだから、はぐれたって仕方ねぇよ、と、公孫賛。
それに苦笑を返しながら、趙雲は周囲を見回した。
これから初詣に行こう、という人間で、ごった返している。


「お前のことだから、うちの家族に気ぃ遣ってんだろうけどな。俺が許す」


初詣に行きましょう、と、公孫賛の母親に言われ、頷いた趙雲。
公孫賛は、それを趙雲の気遣いだと思っているらしい。
趙雲としては、別に初詣に行くのは嫌ではないし、新年らしいとも思う。
ただ、どうしても、落ち着かない。


「実はな、俺も何気なく抜け出すつもりなんだ。お互い、上手くやろうぜ」


この、人ごみ。
潰されていないかな、と。


「そんなわけだからお前、その相手にメールなり電話なり、さっさとしろよ」


まぁ、きっと、義弟たちが、しっかりとガードしているのだろうけれど。
出来ることなら、自分がそれをしたかった、と、趙雲は思うのだ。


「・・・ってお前、人の話、聞いてねぇな」


公孫賛の呆れ声も、物思いに耽る趙雲には届かない。
握り締めていた携帯をポケットから取り出し、そうして、はぁ、と溜息をつく。
未送信のメール文章を見つめて、また、はぁ、と溜息。


「劉備殿・・・」


小さく小さく、口の中だけで呟いて、趙雲は目を細めた。
一緒に初詣に行きませんか、と、それだけでいいのに、上手く書けない。
こんなみっともない文章を、あの人に送れるものか。


「ん、呼んだ?」


と、不意に背後から声がして、趙雲の肩が跳ねた。
それと同時に、手元の携帯から、ピッ、と、電子音がする。


「ッ、あ!」


慌てた趙雲が、音の出所である携帯を見るが、時すでに遅し。
画面にはすでに、送信完了の文字が表示されていた。


「まだ、半端な文章なのに・・・って、え、いや、あれ?」


混乱と憤りを感じた趙雲だが、ふと、あることに気付く。
物思いに耽っていた趙雲の耳に、すこーんと入ってきた、この声。
まさか、まさか、と、ゆっくりゆっくり、趙雲は振り向いた。


「りゅ・・・!」


そして、それが思い違いでなかったことを確信する。
寒さのせいで耳や鼻を赤く染めながら、趙雲を見つめている、その顔。
紛れも無く、趙雲の想い人、劉玄徳。


「明けましておめでと。趙雲も初詣?」


にこり、と、劉備が笑う。
その笑顔を目の当たりにした趙雲の心拍数が、どかんと跳ね上がった。
それでも何とか「はい」と言うと、劉備が更に微笑む。


「もう、すごい人で参るよ。お陰で雲長や翼徳ともはぐれちゃって」


あの、どこから見ても目印になるような、でっかいふたりとですか。
思いながら趙雲は、劉備の義弟ふたりの姿を思い描いてみた。
血走った目で半泣きになりながら劉備を呼ぶ姿が、やたらリアルに目に浮かぶ。


「携帯も電波悪くて連絡取れないし。まぁ、待ち合わせ場所は決めてあるからいいんだけど」


それじゃあ、また、と、劉備が趙雲に小さく手を振った。
その手を、趙雲が掴む。


「・・・??」


劉備に不思議そうに見上げられ、趙雲の心臓が早鐘になる。
一緒に初詣、いや、探すのを手伝います、そう言えばいいだけだとわかっているのに。
趙雲が劉備の手を掴んだまま悶々としていると、電子音が鳴った。


「あ、ごめん。メールだ。あれ、これ趙雲から・・・?」


その音は、劉備の持つ携帯からのもので。
そこで趙雲、はたと気付く。
さっき、驚いて送ってしまった劉備宛のメールは、何処へ?
もしかして、電波が悪かったせいで、今・・・。


「趙雲」


携帯を確認した劉備が、趙雲を呼ぶ。
そして、あの頭の悪い文章を見られた! と、内心撃沈している趙雲へと、微笑んだ。


「折角、こうやって誘ってくれたんだし、一緒に行こうか」


雲長たちとの待ち合わせ場所、お賽銭箱の横だから、と、劉備。
趙雲の脳内には、暦の上と同じく、春が訪れた。


「あ、でも趙雲、誰かと一緒に来てたんじゃ・・・」


言われて趙雲は、公孫賛たちの存在を思い出す。
だが、いくら周囲を見ても、その姿は無い。
よく考えたら、すごい人ごみであれ、周囲は動いているわけで。
そこに立ち止まっていたら、置いていかれて当然だ。


「いいんです。俺も、はぐれたみたいなので」


生真面目に趙雲が言うと、劉備は、心底おかしそうに笑った。
かくして趙雲は、劉備をガードしつつ、神社へと進む権利を手に入れたのであった。










「・・・いない」


ぽつりと、劉備が小さく呟く。
もう賽銭箱の近くだというのに、目立つでかいふたりが見えないのだ。


「列から、出ますか?」


趙雲が劉備に尋ねると、劉備は周囲を見て、首を振る。
順番待ちをする列の真ん中に押しやられてしまったため、列から出られない。


「・・・どうしよう」


劉備が言うのと同時に、趙雲の耳に、なにやら野太い声が聞こえた。
それは劉備の耳にも届いたらしく、ふたりは顔を見合わせる。
そうしてふたり同時に後ろを向くと、少し後ろにやたら目立つでかい二人組みが見えた。


「いた!!!」


劉備の名を呼びまくっているその二人組みに、劉備はぶんぶんと手を振る。
いくらいかつかろうが、劉備にとって、大切で可愛すぎる義弟なのだ。
改めて、三人の絆の深さを知り、趙雲は関羽と張飛を羨望したのだった。


「趙雲。このまま先頭に行って、ふたりが来るまで、ずーっとお参し続けて居座っとこう」


ふたりが来てから、また皆でお参りすれば、万事解決!
嬉しそうに言う劉備に、趙雲も、微笑んで賛同する。
そして賽銭箱の前に立った趙雲と劉備は、賽銭を入れ、手を合わせた。


「・・・・・・・・・」


家内安全学業成就交通安全無病息災一家安泰一攫千金義弟大好安売勝利・・・。
隣で劉備がぶつぶつ言っているのを聞いて、趙雲は、思わず笑う。
色々と苦労している劉備には、神頼みしたいことが沢山あるのだろう。
笑われたのが聞こえたのか、劉備がちらりと目線を上げ、趙雲を見る。


「趙雲は何をお願いした?」


問われて、趙雲は少し頬を染めた。
染めたけれども、正直に、小さく告げる。


「あなたと、一緒にいられますように、と」


言った瞬間、趙雲の頭にチョップが降ってきた。
驚いて、趙雲が、チョップをしてきた劉備を見る。


「そんなことのためにお賽銭使うの、勿体無い! 今だって一緒にいてるのに!!」


もっと違うことをお願いしなさい! と言う劉備に、趙雲は再び笑った。
笑って、それでも、と、思う。


「義姉者ぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!」


野太い声が、追いついてきて、劉備をぎゅうっと抱きしめた。
だからこそ、趙雲は、それでも、と、思うのだ。
ぎゅうぎゅうと大男ふたりに抱きしめられている、髭の女子高生。
何気に人気者で、競争率もそれなりに高い、趙雲にとって、最愛の人。


「もっと違うことをお願いしなさい、って言われてもなぁ・・・」


改めて手を合わせても、趙雲が願うことはひとつだけ。
それでも俺は、やっぱりあなたと一緒にいたいんです。劉備殿。













「珈琲が好き」の管理人、山本六花さまに捧げる趙劉話。
クリスマスにあまりにも素敵なプレゼントを頂いたので、お返しに何か、と六花姫に押し付けリクエスト。
結果、頂いたのが、高校生な趙劉で、お正月or初詣orバレンタイン話を、というリク内容。
が。勝手に六花姫のサイト「髭の女子高生劉備たん」設定にしてしまいました・・・!
高校生、という希望を聞いた瞬間に、これは「髭女子」で書くしか・・・!と・・・。
勝手にすみません、六花姫;駄目でしたらすぐに書き換えますので!!
「髭の女子高生劉備たん」を知らないかたは、今すぐ六花姫のサイトに飛ぶのです!!
色々と萌えますよ。早く続きが読みたくでウズウズしてる「髭女子」ファンなのです、私。
そのわりには色々と捏造してる設定もありますが・・・。

うぅ、でもこれ、趙劉になって・・・ますか・・・?
色々と粗ばかりですみませんー;;
よろしければ、受け取ってやってください・・・!


「詣」 ―もうでる―





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