天下統一を果たし、すべてが宴に酔う夜、楼閣に、人影がふたつ。
楽しげな声を下に聞きながら、ひとりが、言葉を放つべく、息を吸う。































「ついに天下統一・・・ですね」


感慨深げに、陸遜が言った。
その隣には、彼の君主である劉備。


「そなたのおかげだ」


にこり、と人好きのする笑顔で微笑まれ、陸遜も思わず笑い返す。
陸遜は劉備の天下統一ため、ありとあらゆる献策をした。
例えば火矢装備とか火矢装備とか火矢装備とか、あと火矢装備とか。


「乱世は終わったのだな・・・」


噛み締めるように、劉備が言う。
もう、乱世は終わった。戦で民が疲弊することもない。
笑顔の溢れる国にしよう、と、劉備は心の中で誓った。


「まずは、在野の有能な将たちを一度集めなければならないな」


よし、と、次の方策を呟く劉備に、陸遜は目を丸くした。
天下統一を果たしたその日に、次のことを考える姿に驚いたわけではない。


「・・・まさか、全員登用するおつもりですか?」


捕縛したが所持金が足りず放逐した将や、出会うことのなかった将。
そのすべてを、劉備は登用するつもりでいるらしい。


「いけないか? みな、働きたいとの旨を手紙で寄越してきているのだが」


陸遜は、くらりとした。
ちなみに、呆れているわけではない。


「あなたは、本当に・・・純粋でお可愛らしい方ですね・・・」


これだから、私がついていなきゃいけないんですよ。と。
主君への愛情を改めて感じていただけだ。


「・・・では、これらの手紙は罠だと?」


しかし劉備は、陸遜の言葉を「何もわかっていない」という風に受け取ったらしい。
眉根をきゅっと寄せて、何処か不安げに陸遜に訊ねた。
陸遜はそんな劉備を安心させるように、ゆっくりと首を横に振る。


「いいえ。罠ではありません」


確かに、武将たちはしっかりと働くだろう。他ならぬ、劉備のために。
しかし、策謀もしっかりと巡らせてくるだろう。劉備を手に入れるために。


「良かった。実は明日、全員と会う約束を」


ぴくり。
陸遜の肩が、一瞬上がる。


「明日、ですか?」


それはまた、えらく唐突な。
だが、劉備は笑顔のままだ。


「丁度、国中で祝宴も続いていることだし。都合がいいだろう?」


配下武将が全員揃い、また、民にも情報が伝わりやすい状況。
そこで、続々と新参の武将たちが、劉備に忠誠を誓う。
そして敵国にいた武将たちをも劉備が登用すれば、徳の名も上がる。
確かに、知らしめるにはとても都合がいい。


「随分と、学ばれましたね」


陸遜が言うと、劉備は照れ笑いを浮かべた。
そして陸遜の手を取り、頭を下げる。


「陸遜が色々と教えてくれたおかげだ。・・・感謝している」


慌てて陸遜は、膝をついた。
軍師という立場にはいるが、君主は劉備。
君主を、高い位置から見降ろすなど。


「私は、当然のことをしたまでです」


はっきりと言い切る陸遜に、劉備が微笑した。
相変わらず、城下からは楽しげな声が響いている。


「陸遜に何か褒賞を、と、思うが・・・何か望みはあるか?」


城下の騒がしさを好ましげに聞きながら、劉備は言う。
陸遜は、「これだからこの人は」と、苦笑を浮かべた。


「そういうこと、私以外には言っちゃいけませんよ」


可愛い兎さんから、何か望みは、だなんて。
そんなこと聞かれたら、狼さんは大歓喜だ。
陸遜は苦笑を収め、劉備をじっと見た。


「新たなる一歩を踏み出す、今宵。あなたとの同衾をお許しください」


劉備が、驚いた顔をした。
同衾なら、何度もしているのに、と、言わんばかりに。


「そんなことで良いのか? 他にも、馬や、武器、役職、楽隊など」


次々と、思いつく限りの褒賞を挙げていく劉備に、陸遜は微笑んだ。
本当にわかっていない。可愛いなぁ、あなたは。と、内心で思う。


「今まで」


陸遜が、口を開いた。
劉備が、ぴたりと黙る。


「あなたと、口付けを交わしたことは、ありましたが」


途端に赤くなった劉備の顔を、陸遜は愛おしげに見つめた。
主と配下。その関係が微妙に崩れたのは、いつだったのか。
戯れるような口付けや、貪るような口付けを、何度も。


「情を交わしたことは、まだ」


漸く、劉備の頭が、陸遜の言葉の意味を飲み込み始めた。
何か言おうと、劉備は口を何度か動かすが、言葉が出ない。


「・・・劉備殿。あなたを、抱かせてください」


言うが否や、陸遜はいまだ握られたままであった劉備の手に、顔を近づけた。
そうしてその手の甲に唇を落とし、そのまま舌を這わせる。


「陸・・・っ」


劉備の声に後押しされるように、今度は指と指の間を。
丹念に舐め続けていると、力が抜けたのか、劉備がへたりこんだ。
ちらりと陸遜が劉備を見ると、その顔は、とてもとても真っ赤で。
思わず忍び笑いを漏らし、陸遜は劉備を抱きしめた。


「り、陸遜・・・」


小さく名を呼ばれ、陸遜が「はい」と応える。
密着した身体は、お互いの鼓動を伝え合う。
劉備の、早い鼓動を聴きながら、陸遜は目線で続きを促した。


「ここは、寝所じゃないぞ・・・。同衾するにしても、何にしても、その」


暫くの間のあと、陸遜は、思わず笑った。
笑って、同じく陸遜の早い鼓動を聴いているであろう劉備に、言う。


「寒いのですか? 心配なさらずとも、すぐに熱くなりますよ」


わざと、意図を外した答え。
劉備が、羞恥に少し耳を染めた。


「そうではなく・・・!」


人に見られたり、声を聞かれるのではないかと。
劉備が、そういうことを心配しているのは、陸遜も重々承知だ。
だが、陸遜は長い間、こうすることを耐えてきた。
劉備の身体に無茶をさせてしまう。だから、耐えた。


「ご心配なさらずとも、あれだけ騒がしいのですから、誰も気付きませんよ」


それだけ頑張って耐えたのだから、少しくらいは。
少しくらいは、意地悪したって、罰は当たるまい。


「それに・・・すぐに、人の声も、人の目も気にならなくなりますから」


何か言おうとした劉備の口を、陸遜が己の唇で塞いだ。
明日、劉備に仕官を求める、名だたる武将が一同に会す。
その瞬間から、劉備を我が者にせんと、策謀が渦巻く。
ならば、先手を打つのみ。陸遜は、思う。


「明日が、楽しみです」


小さく言って、陸遜は劉備の首に、唇を寄せた。
言葉を聞き取れなかった劉備が、ぼぅっとしながらも陸遜を見つめる。
不思議そうな目に、「なんでもないです」と、陸遜は微笑んだ。
明日、劉備の首筋に残る赤い印は、どういう衝撃を与えるだろう。

陸遜の戦いは、これからが本番。先制攻撃は、当たり前。
だから、そう。先手を打って、知らしめるには、丁度良いのだ。













相互リンク記念で、山ちゃんさまに捧げます。
陸遜×劉備、とのことでしたので、エンパモードでいってみました。
君主が劉備で、軍師が陸遜、という設定で。
最初は、ほのぼのでいくずぇ〜! と思っていたのに、陸遜が意地悪さんに。
多分、私の中で彼は黒いので、いくら白く上塗りしても無駄だったのでしょう(笑)
しかしエンパは妄想の宝庫でしたよね・・・。

こんな作品ですが、よろしければお納めくださいませ。
相互リンク、有り難うございました!


「知」 ―しらしめる―





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