何か、お揃いにしてみませんか。
平たく言えば、そういうことだったのだ。































「あの、それは・・・どういうことでしょうか?」


意味がわからないといったふうに訊ねるのは、劉備。
劉備の目の前には、箱。そして、呉の君主、孫堅。


「聞いての通り。無双4で、この帽子を使う気は無いかと言っている」


箱の中には、孫家からの贈り物だという、帽子。
劉備は、まじまじとその帽子を見た。


「これは策も権も尚香も、孫家全員の望んだことでもある」


孫堅はそう言うが、当の劉備はまだ、わからないといった顔をしている。
わからないのは、何故、ということだろう。何故、私に、と。


「ちなみに孫家との絆を表すために、赤い宝石もあしらってある」


だが孫堅は、お構いなしに話し続けた。
見ると確かに、帽子には赤く輝く宝石がついている。
孫堅が、「まぁ、かぶってみろ」と、帽子を差し出した。

その直後。

どかーん。だとか、ずがーん。だとか。
そんな、どう考えても爆発音な音が響き渡る。
しかもびりびりと部屋が振動までする始末。
劉備は、何事だと顔を上げた。


「親父ぃ、黄蓋から盗ってきた爆弾がもう尽きるずぇ〜!!」


劉備が顔を上げるのと同じくらいに、外から、こんな声がした。
その声に、「え?」と、劉備が席を立つ。


「孫堅殿、あの・・・孫策殿もいらしていたのですか・・・?」


言い忘れたが、場所は劉備の私邸である。
急に孫堅が現われたものだから、てっきり彼だけの訪問かと思っていたが。
こうしてはいられない、と、劉備が部屋の扉に手をかけた。


「待て、劉備。策には構わないでいい、あけるな!!」


孫堅が声を荒げる。また、どかーん、と、爆発音がした。
だが劉備は、自分の家がどうなっているのも気にかかる。
そりゃ何度も爆発音がしていれば、無理もない。


「しかし何が起こっているのかも気に・・・って、わぁッ!!」


ずがーん、と、扉のすぐそばで、爆発音がした。
思わず叫びながら耳を塞ぎ、劉備がしゃがみ込む。
あぁもう何だか兎さんみたいー、萌えー、とか、孫堅は思った。
が、それ以前に劉備を怯えさせたということで、突如キレた。


「てめぇら、劉備が怖がったじゃねぇかどうしてくれんだ、あぁ!!?」


呉のアットホームダンディパパ、ご乱心。
外の爆発音が、ぴたりと止んだ。


「・・・あの、孫堅殿。『てめぇら』って、まさか・・・?」


孫堅の大音量は、耳を塞いだ劉備にも十分聞こえていたようで。
恐る恐る訊ねてくる劉備に、孫堅は我に返り、曖昧な顔をした。


「・・・まぁ、その、な。孫家全員、来ている」


劉備の顔色が変わった。徳だとか礼だとか仁義だとかを重んじるのが劉備。
自分の嫁さんやその家族を放置していて、彼の気が済むわけがない。
どうして報告が来なかったんだと思いつつ、慌てて扉に手をかけた。


「劉備、あけたら後悔するぞ・・・」


尚も止める孫堅だが、劉備は扉を開いた。
この際、爆発で家がボロくなってようが構わない。


「お待ちいただいていたとは知らず・・・。劉玄徳、不徳の極みです」


扉を開いてすぐ、劉備は礼を取る。
そして「どうぞ中へ」と、顔を上げた、瞬間。


「やっと出てきたか。相も変わらず焦らすのが上手い奴だな、劉備よ」


劉備が、凍った。何が起こっているのか、さっぱりわからない。
ボロくなった私邸はともかく、何故孫家のみならず曹操までいるのだ。
理解不能だと、口をパクパクさせながら、劉備が孫堅を見た。


「だから後悔すると言っただろう・・・」


厳しい顔で、半ば呻くように孫堅が呟く。
それならそういう事情だと早く言ってくれ、とマトモなことを劉備は思う。


「えー・・・何用でしょうか、曹操殿」


こほん、と、咳払いを一つ。
とりあえず気持ちの切り替えを行う劉備。
問われた曹操は、にやりと笑った。


「わしがくれてやったあの帽子を、もう着用せぬ、などと言うまいな?」


意地の悪い言い方だ、と、劉備は溜息をつく。
孫家の面々と、曹操。どちらの視線も、痛い。


「あの美しい青の宝石をあしらった帽子だ。無双3で使っていただろう」


言う曹操に、孫堅が鼻で「ふん」と哂った。
途端、曹操は機嫌の悪い目を孫堅に向ける。


「いつまでも同じものを使っていられるか。次はこの帽子だ」


曹操の目が細まる。視線の先は、勿論のこと赤い宝石。
機嫌悪く細まったその目で、曹操は孫堅を睨みつけた。
だが孫堅も負けじと曹操を睨みつける。


「それが呉の帽子か。何と趣味の悪い」


空気が、凍った。
劉備が思わず腕をさする。


「新しいものにするなら、せめてこれくらいはせねばな。・・・丕よ!」


曹操が、物陰に声をかけた。するとボロくなった物陰から何かが動く。
途端に孫家の面々にも、一度に緊張が走った。
ああ、孫家が争っていたのは、曹家だったか、と、劉備は思った。


「・・・お前だけ安全なところに隠れおって・・・」


爆弾が爆発する中、曹操の息子である曹丕は物陰に隠れていたらしい。
物陰から現われた曹丕は、曹操の言葉を意に介する事も無く前に進み出た。


「父よ。私は必要時以外無駄な労力は使わない主義だ」


父親譲りの鬼畜鋭い目で劉備を見ながら、曹丕が言い放つ。
そんな曹丕の手には、孫堅が持ってきたのと同様に箱があった。


「お初にお目にかかります、劉玄徳殿。曹操が息子、曹丕と申します」


箱を置き、曹丕が丁寧に劉備へと礼を取る。
慌てて劉備も礼を取るのが気配でわかり、曹丕は小さく笑った。
なるほど、これは欲しくなる、と、心の底で思う。


「無双4での帽子に関し、もし変更を希望されるなら、是非これを」


すっと箱を差し出す曹丕に、「させねぇ!」と、横から孫策が爆弾を投げた。
そこに曹操が割り込んで、剣でカキィィンと良い音を響かせながら爆弾を打った。
空に舞った爆弾が、ずがーん、と、最早聞きなれた音を撒き散らす。
何だこの親子、と、孫家の面々は、自分たちのことを棚に上げてそう思った。


「ま、まぁ皆さん・・・外では何ですから、どうぞ上がってください」


多少疲れ気味に劉備が言うと、孫家と曹家は黙って頷いた。
とりあえず、劉備の顔を立てて一時休戦ということで落ち着いたらしい。


「玄徳さまっ」


にこにこと笑いながら、尚香が劉備のもとへと駆け寄る。
尚香が劉備の元を去ってから、すでに久しい。劉備も笑いながら尚香を見た。


「玄徳さま、元気だった?」


何気なく劉備の腕に己の腕を絡めながら、尚香が訊ねる。
劉備は劉備で、微笑みながら「ああ」と頷く。
とても仲睦まじい彼らの後ろ姿に、置いてけぼり感を味わう残りの面子。


「あ、そうだ」


劉備が、ふと置いてけぼり感を味わいまくっていた面子へと振り向いた。
孫家と曹家は、待ってましたとばかりに劉備を凝視する。


「曹操殿と曹丕殿が持ってこられた箱の中身は、何でしょう?」


曹丕がずっと抱えている、中を見そびれた、箱。
気にはなっていたのだろう、劉備が問うと、曹操がにやりと笑った。


「見たいか。お前にとても似合うと思って、特注で作らせたからな」


曹操は、ずんずんと歩き、劉備が勧めるより先に部屋の椅子に腰掛ける。
その態度に尚香は頬を膨らませるが、当の劉備は大して気にもしていない。
続いて孫堅が椅子に座り、残りは劉備が椅子を勧めてから漸く着席した。


「箱の中身を見せてやろう」


劉備も席についたところで、曹操が言う。
途端に、策、権、尚香の顔色が変わった。


「どうした?」


孫堅がそれに気付き、子供たちへと不思議そうな視線を送る。
彼は劉備と話していたため、箱の中身を知らない。
顔色の変わった孫家の子供たちは、きっと中身を見たのだろう。


「だ、駄目よ!!」


尚香が席を立つ。孫策も「確かに良くねぇ」と同意した。
孫権は、黙って曹操と曹丕、そして劉備を見比べている。


「何を慌てている? 曹操の用意した帽子など、一笑してやれば良いだろう」


孫堅が言うと、尚香は思いっきり首を横に振った。
そんな様子に、意味がわからない孫堅は首を微かに傾げる。


「父さま、気に入っちゃうかもしれないもの!」


え。と、孫堅が固まった。
尚香は、いたって真面目な顔をしている。
そんな遣り取りを見ていた曹丕。ふん、と、鼻で笑った。


「貴様、何を笑う」


孫権が曹丕を睨み付ける。
睨みつけられ、曹丕は更に笑った。


「見るくらい、良いだろうに。孫家の方々は、余程帽子に自信がないとみえる」


笑いながら言う曹丕に、孫権が不快な顔をする。
その様子を横目で見ながら、曹操が箱に手をかけた。
孫家の子供たちが「しまった」と声を上げる。


「見よ、劉備。お主のためだけに作り上げた、最高級の帽子ぞ!」


ぱかっと開けられた箱の中身。
それを目にし、劉備が固まる。


「そ、そ、曹操・・・っ!!」


同じく箱の中身を見た孫堅は、拳をぶるぶると震わせていた。
しかしその顔は何となく、にやけている、ように見えんこともない。
曹丕に気を取られ、箱を開けることを阻止できなかった。
そして予想通り、孫堅は、何かちょっと気に入ってるっぽい。
孫権が、己に後悔しながら溜息をつく。


「これが似合うのは、お主の他におるまいて」


上機嫌で曹操が箱の中身を取り出した。
劉備の頭へ乗せようとした瞬間に、固まっていた劉備の意識が戻る。
意識が戻った途端、ずざざざざざっ! と、劉備は部屋の端まで逃げた。


「何故逃げられる。魏からの心よりの贈り物、気に喰わないと?」


部屋の壁に背中からへばりついた劉備に、曹丕は言う。
箱の中身を手にしたまま、曹操も劉備へと目をやった。


「気に喰わないに決まっておろう! そんな防御力もなさそうなもの!!」


横から、孫堅が口を挟む。その顔には幾多の殴られた跡があった。
多分、いや恐らく、むしろ完全に、子供たちにやられた跡だ。


「ふ・・・甘いな、孫堅」


目線は劉備に定めたまま、曹操が笑む。
そして箱の中身を高々と空へ掲げた。


「これを身に着ければ、あまりの萌えっぷりに誰も劉備を攻撃できん!」


自信満々に言い切った曹操。言葉に詰まる孫家。
曹丕が、父親譲りの変態鬼畜鋭い目で劉備を見やる。
そのあと孫家へと視線を向け、これまた自信満々に言い切った。


「そう。だから、防御力など必要ない」


何だこの親子。と、再び孫家一同は思う。
が、そんな中で孫策がぽつりと呟いた。


「・・・おめぇらに対しての防御力が、一番必要なんじゃねぇか?」


瞬間、孫家一同は「そうだ!」と、物凄い勢いで奮起した。
孫堅は「その通りだ、策!」と言い、孫権は「流石です、兄上!」と誉めそやす。
尚香に至っては獲物をしっかり装備し、妙に据わった目をしていた。


「つまらぬ奴らよの。この『うさみみバンド』の良さがわからぬか」


曹操の手の中にあるのは、兎耳のついたヘアバンドだった。
しかも兎耳の部分は、本物の毛を使っているのか、もこもこだ。


「いや、確かに似合うとは思うずぇ〜」


自分に正直な孫策が、またまたぽつりと呟く。
が、その直後に目の据わった尚香に「何言ってんのよ!」と殴られた。


「玄徳さまが使うのは、この呉の帽子よ!!」


ダンッ! と、お行儀悪く足を椅子の上に乗せ、尚香が宣言する。
更に「文句があるならかかってきなさい」とまで言う始末。
曹家は曹家で、それならば、と、親子揃って武器を構えた。
それにまた孫家が反応し、空気がぴりぴりと張り詰め始めた。


「・・・いい加減に」


そんな張り詰めた空気の中を、小さな声が縫ってくる。
だが目の前の敵に集中しまくっている彼らに、その声は届かない。


「・・・いい加減に・・・してくださいよ・・・」


また、張り詰めた空気の中を、小さな声が縫ってきた。
その声に気付いたのは、孫権と尚香だった。
声の出処を知るや、慌てて武器を引っ込める。


「いい加減に、しなさいッ!!!」


そして連射されたのは、矢。
何処から持ってきたのか、劉備は弓矢を装備していた。


「ま、待て劉備・・・っ!!」


矢をガードしながら、曹操が情けない声をあげる。
遠慮なく射られる矢は、うさみみバンドにも突き刺さる。
無慈悲にも、もこもこだった兎耳がボロボロになっていく。


「私はそんなもの絶対に使いません! 使いませんとも!!」


怒りに顔を染めながら矢を連射しつつ、叫ぶように言う劉備。
矢をガードしながら「あぁ、怒ってても可愛くて萌えー」とか思ってる曹操。
そして、ほんの少しうさみみバンドに名残惜しげな視線を送る孫堅。
三者三様。孫策が彼らを見て、小さく息を吐く。
そのあとすぐに、床を強く蹴った。


「まぁまぁ、落ち着けや。ほら、もうあの兎耳のやつはボロボロだろ?」


連射される矢を見事に避け、孫策は一度に劉備との距離を詰めた。
そのまま劉備の腕を掴み、にっこり笑いながらうさみみバンドを示す。
遠目に見ても、うさみみバンドはそりゃもう無残な状態になっていた。


「な? これ以上やったら尚香にも矢が当たるかもしれねぇぞ?」


荒く息をつく劉備が、その言葉に、ばっと顔を上げる。
落ち着いてきたのか、孫策の言葉に頷き、構えていた弓を下ろす。


「よぅし、良い子だなっ」


どう考えても孫策のほうが年下なのだが。
そう言うと、孫策は劉備の頭をぽふぽふと軽く叩く。
その直後、複数の武器が孫策の足元を直撃した。


「兄様・・・。玄徳さまの頭を叩くなんて、許せない・・・!!」


ぶるぶると、声も身体も震わせて、我が妹が、鬼人と化さん。(詠み人、孫策)
なかなか見事に床にめり込んだ武器を見て、孫策が己の家族へと顔を向ける。


「まぁ、尚香は許すけどよ・・・。でも何でお前まで攻撃すんだ、権!!」


何食わぬ顔で、尚香と一緒に孫策の足元へと武器を放っていた孫権。
怒鳴られて、きっ、と、孫策へと視線を向けた。


「いくら兄上と言えど、譲れぬものはあるのです!」


バチバチと、兄弟の間に火花が散る。
要するに孫策のようなスキンシップが出来ない孫権の妬みなのだが。
そんな弟の心など、豪快な兄が知る由も無い。
孫権の言葉に「何だとー!」と叫び、勢いよく走り出す。


「・・・・・・あぁもう、滅茶苦茶だ」


正気に戻った劉備が、小さく眉を顰めた。
目の前で繰り広げられる兄弟喧嘩。これをどうしろと。


「何せ、孫家は虎の家系。全員血の気が多いからな」


隣から声が聞こえ、劉備が横を見ると、苦笑いをした孫堅がいた。
そしてその手には、最初に見せられた呉からの帽子が。
劉備が矢を乱射する前に、孫権と尚香が急いで隠していたのだ。
いやまったく、親孝行な子ども達だ、と、孫堅は思う。


「ま、これで魏と縁を切ろうと思ったろう。この帽子を。劉備」


言うが否や、ぽすんと孫堅が劉備の頭に帽子を乗せた。
大きさは見事に、劉備の頭にピッタリだった。


「よく、似合う」


目を細め、孫堅が笑う。と同時に、劉備も溜息混じりで笑った。
その直後、孫堅の身体が真横に吹っ飛んだ。


「なぁに、父様。抜け駆けして・・・」


尚香が、それはもうとても良い笑顔で右足を上げている。
間違いなく、孫堅を蹴りましたというポーズだ。
そして右足を静かに下ろし、ちょっと凹み気味の曹家へと目線を向ける。


「玄徳さまは、呉の帽子を使ってくれるそうよ!」


っていうか、うさみみバンドはボロボロで使えないだろうが。
とかいう曹操の心のツッコミは、勿論のこと届かない。
いやでも、傷ついた兎さん風って意味では、有りか。
なんていう曹操の心の萌えも、勿論のこと届かない。


「いつか・・・近いうちに、全身兎装備にしてやるとも・・・」


そんな横で、曹丕がぽつりと呟いた。
兎装備ってことは、アレか。尻尾もつくのか。
曹操の心の萌えは、曹丕には伝わった。
曹丕が曹操を見て、ゆっくりと頷いたのだ。


「ふ・・・。劉備よ、いつか全身兎装備で銅雀台にて囀ってもらうぞ!」


瞬間、再び劉備の放った矢が、曹操の足元に刺さる。
その矢を見て、曹操と曹丕は笑った。
反抗する兎を従順に飼いならすのも、サドの血が騒ぐ。


「いいからあんたたち、魏に帰りなさい!」


不穏な空気を嗅ぎ取ったのか、尚香が劉備から矢を奪って連射した。
そしてそれを後押しするかのように、極太なビームがシュンッと飛ぶ。


「孔明!」


何時の間に来たのか、劉備の隣を当たり前のように陣取っている、蜀の軍師。
劉備へにこりと微笑み、曹親子をビームで吹っ飛ばした空を見る。


「ご安心を、我が君。彼らには魏にお帰りいただきました」


その視線を追って空を見る劉備に、孔明はくすりと笑った。
そして、ちらりと、己の懐を見る。
密約の記された、手紙が入っているのだ。


「孫家の皆様方も、ご安心を。その帽子を使わせていただきます」


微笑みながら言う、孔明。それを見る孫家一同。
孫堅が、劉備に悟られないように、小さく頷いた。


「よし、これで用事は済んだな。帰るぞ。策、権、尚香」


密約の、手紙。孫堅が、密かに孔明へと放った使者に持たせたもの。
そこには呉からの蜀への援助物資などが、事細かに記されている。
そして最後に一筆、『魏よりも、良い条件を示す自信がある』で、締めている。
呉からの帽子を使えば、蜀が随分と潤うことになるのは間違いない。
孔明は、その条件を飲んだ、ということだ。


「泊まってゆかれないのですか、孫堅殿」


劉備が驚いて孫堅へと顔を向ける。
孫堅は、苦笑した。


「泊まるのも良いが、流石に、子供たちの前ではまずいと思ってな」


返ってきたその言葉に、劉備は首を傾げる。
そしてその孫堅の言葉を聞いた孫家の子供たちは、顔色を変えた。


「玄徳さまに何するつもりなの、父様・・・ッ!!」


尚香が劉備を庇うようにして立ち、そこに孫策と孫権も加わる。
各自、手には武器を持ち、目が据わりまくっていた。


「この通り、子供たちも落ち着きが無くてな。とりあえずは、帰るさ」


孫堅は劉備に笑ってみせて、孔明にも意味ありげに視線を投げ、一礼した。
劉備と孔明も孫堅に礼を返し、そのあと劉備は「あっ」と声をあげる。
そのままごそごそと懐を探る劉備は、目的のものを発見して微笑んだ。


「では、帽子のお礼にこれを」


差し出されたのは、緑色の宝石。


「本当は私が使おうと思っていたのですが・・・絆を表すために」


孫堅が、笑う。笑って、しっかりと宝石を受け取った。
そして今度こそ、名残惜しげな子供たちを引き連れて、去った。


「・・・・・・あぁ、嵐のようなひと時だった・・・」


孫家一同の背中を見送りながら、劉備が苦笑しつつ言う。
孔明も、同じく苦笑した。が、その笑みはすぐに消え、


「我が君。無双4はその帽子を使いましょう。ですが」


という言葉を、劉備へと放った。
視線を向けてくる劉備に、孔明は続ける。


「モデル3では、無双3の衣装を使いましょう」


孔明の懐には、密書が二通あった。と、つまりはそういうことだ。
知らぬは劉備ばかりなり。








一方。数日後の、呉。


「父上! それは一体どういうことですか!!」


孫権が、孫堅に不満を撒き散らす。
不満の原因は、孫堅の無双4における衣装。


「親父。権の言う通りだ。どういうことだよ、ソレは」


孫策も、不満気だ。
彼らの視線は、孫堅の兜へと向かっている。


「何で、劉備のと似たような模様なんだよ、親父ぃ!」
「それよりも、その緑の宝石は何なのですか!!」


今にも無双乱舞を発動させそうな息子達に、孫堅は笑みを浮かべるばかり。
しかしその笑みは所謂「勝者の笑み」で、息子ふたりは悔しがるしかない。
と、その横を、尚香が横切った。


「おい尚香、お前も親父に何か言えよ!」


孫策が尚香を呼び止める。
だが振り向いた尚香はというと。


「しょ、しょ、尚香・・・っ!?」


孫権が、素っ頓狂な声をあげる。
孫権の目が青いのは、周知。しかし、尚香の目は。


「えへへ〜。緑のカラコン入れてみたの。どう?」


何だそれは、と、孫権が唸る。
緑色の目をした妹を、孫策も凝視した。
そんな兄ふたりにはお構いなしで、尚香は孫堅に話しかける。


「父様。私のモデル2の衣装、もう出来てる?」


頷いた孫堅を見て、尚香が喜びの声を上げながら走り去っていく。
どこか呆然とその後ろ姿を見送った、孫家の息子ふたり。
我にかえり、再び孫堅に食って掛かるも、尚香の再登場に、崩れ落ちる。
緑色の宝石をあしらった、劉備と似たようなデザインの兜をかぶった父親。
そして、緑のカラコンを装着し、モデル2の緑色の服を来た妹。


「こりゃ見事に出し抜かれたな、権・・・」
「私も何かお揃いにしたかったです、兄上・・・」


がくりと肩を落とす彼らを照らす空の色は、綺麗な夕暮れの赤だった。













有り得ないほど長くなってしまいましたが、相互リンク記念でざくろさまに捧げます。
リクは、無双4における劉備の帽子の宝石絡みで孫家→劉備←曹家な話、でした。
うわぁい、争奪戦だ〜v とか喜んでましたが、書けば書くほど収拾つかなくなりました。
とりあえず全員劉備と絡ませたい、と調子に乗ったところ、ほんと長い&意味不明に;
しかも曹丕と孫権はあんまり劉備との絡みがありませんでしたし・・・。
リク内容と著しく合わない状態になってしまいました。すみません;
それでもよろしければ、受け取ってやってくださいませ。
遅くなりまして申し訳ありませんでした。
最後になりましたが、相互リンク有り難うございます!


「色」 ―いろ―





女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理