その一行は、ただ黙ってお互いの顔を見ていた。
小さなちゃぶ台を真ん中に挟み、四人は正座で、事が始まるのを待つ。








  破壊者的日常





「このレシートだけど、どういうことだ」


沈黙を破ったのは、ルックだった。
彼の手には家計簿と、レシートが握られている。


「買い物を君に任せるべきじゃなかったよ・・・」


がくりと項垂れながら、ルックは家計簿に記入していく。
使うペンの色は赤色ばかり。要するに、赤字だ。
恨みがましいルックの視線は、彼の正面へと向かっていた。


「いい歳して、どうして毎回買い物リストに無いお菓子を買う?」


溜息混じりに正面を半ば睨みながら言うルック。
それに対して、正面に座っていたアルベルトが口を開いた。


「軍師たるもの、こまめに栄養をとり、常に脳を活性化させておきたいのです」
「だからって、こうも毎回やられたんじゃ金銭的にキツイんだけど」
「ですから私はそのあたりも考えて行動しておりますが」
「どのへんが行動してるのか教えてもらいたいね」


アルベルトは、不機嫌なルックからお菓子のレシートを奪う。
本来の買い物とわざわざ分けて精算してもらっているそのレシート。
できればバレないようにと計算していたのが丸分かりである。
てかバレたくないんだったらレシート捨てろよとかいうツッコミは無し。


「ご覧ください、ルック様」


アルベルトはレシートをルックに示す。
買った商品一覧を指でひとつひとつなぞりながら、自信満々に言った。


「我らの金銭面を考慮して、安い駄菓子しか買っておりません」
「アルベルト。塵も積もれば山となるって諺、知ってる?」


その言葉に平然と「知っておりますが」と返すアルベルトを無視し。
ルックは新たな標的へと矛先を変えた。


「ユーバー」
「何だ」


ちゃぶ台の上に置かれた蝋燭の火をぼんやり見つめていたユーバーが顔を上げる。


「これを見ろ」


ルックはレシートと、光熱費関連の請求書をユーバーに突きつけた。


「これがどうした」
「・・・お前の使った分だ。わかっているか」
「ああ。だから、それが何だ?」


その言葉を受けて、ルックはちゃぶ台を叩く。
そして微妙に血走った目でユーバーをねめつけながら言った。


「お前は、シャンプー代と水道代と電気代を使いすぎだッ!!!」


怒鳴られたことに一瞬呆けたユーバーだが、すぐに反撃開始する。
同じくちゃぶ台を叩き、ルックに怒鳴り返した。


「髪はなッ、大事に大事にいたわらねば、枝毛ができるのだぞッ!!!」


瞬間、ルックの右手が光った。


「なら僕の切り裂きで枝毛を切り落としてあげるよ・・・!」
「冗談を言うな。枝毛どころか三つ編ごと切り落とされそうだ」
「・・・ああ、そうか。なるほど、そういう手もあったね・・・」


右手に続き、ルックの目も怪しく光る。
やばいくらいに本気の目だ。


「大量のシャンプーと水を使い髪を洗って、そのあとはドライヤー・・・」
「当然だ。俺の髪はデリケートだからな。常に最高の状態にしてやらねば」
「ユーバーからはえてる髪の毛なら、本人と同じく図太いと思うけど」


不穏な空気が四畳半のアパートの一室に満ちる。
ルックは紋章発動準備が整い、ユーバーは今にも三人に分裂しそうな勢いだ。


「ユーバー」


そこに割って入ったのは、隠し持っていたうま○棒を食べるアルベルト・・・。
ではなく、その隣に座るセラだった。


「貴様は引っ込んでいろ」
「そうはいきません。あなたは勘違いをしています」
「ふんっ、相変わらず趣味の悪い仮面のコイツを庇い立てするのか」


何気に毒を吐くユーバー。美的感覚は正常かもしれない。
しかしセラは、しっかりユーバーを見据え、びしっと言い放った。


「ドライヤーの当てすぎは、髪を最高にするどころか傷めるだけです」


微妙に閉まりきらない、立て付けの悪い窓から冷たい隙間風が入る。
蝋燭の火が、入ってきた風にあおられて大きく揺れた。


「・・・し、知らなかった・・・ッッ!!」


そんな蝋燭の火に照らされたユーバーの表情は、驚きと同時に暗い。
それに対して、セラが今度は微笑んだ。


「落ち込まないで。これからは自然乾燥と上手く使い分ければ良いのだから」


そっとユーバーの肩に手を添えて、言う。
ユーバーはその言葉に深く頷き、ボロボロになった台拭きで目元を押さえた。


「セラ・・・そうやって甘やかしちゃ駄目だよ」


それを見ていたルックは、眉を寄せながら呟く。
するとセラは、ルックに対してもにっこりと微笑んだ。


「ルック様、ユーバーの髪のことは許してやってくださいませ」
「どうして。そんなことに気を遣うだけの余裕はないよ」
「ですがルック様。綺麗な金の髪は高く売れると言いますし」


にっこり。さらり。


「いざというときの保険としては、十分に見合うものだと思います」


素晴らしい笑顔でユーバーにとっての爆弾発言をかましたセラ。
それを聞いて、思案のために家計簿と暫く睨み合いをするルック。
そして、それとはお構いなしに○まい棒(四本目)に突入するアルベルト。


「お前らなんか嫌いだぁぁぁ!!!!」


そんな彼らに、ユーバーがついに三人に分身した。
分身したからって別に何のメリットもないが、勢いで分身した。
すると、それを見たルックは、ポンと手を打つ。


「よしわかった。ユーバーの髪には予算を割こう」
「ルック様、ならば駄菓子にも予算を」
「売るときに分身してもらえば、三人分の髪で十分に元手を取れる」
「駄菓子の持つ、この程よい甘みがまた格別で」
「そういうワケだからユーバー。ドライヤーは使いすぎないように」


う○い棒(五本目)を食べながら言う赤毛軍師は完全無視し。
ルックは家計簿に新たな予算項目を追加した。
そこにユーバー三人が怒鳴る。


「ならばセラの髪を売れば良いことだろう!!」


直後、セラの周囲に青い光が発生した。
魔法かと身構えたユーバーの目前で、予想通り魔法が発動する。


「ルック様・・・!ユーバーがあんなことを・・・!!」
「可哀想に、セラ・・・。大丈夫、そんなことは絶対にさせない・・・!」
「いいえ、いいえ・・・。ルック様が必要だと言うなら売りましょう・・・!」
「ああ、なんてことだ。こんな大粒の涙をこぼしてまで・・・」


大粒の涙というか、発動したのは『優しさの流れ』。
発動時に降って来る大粒の雫が、ルックにはどういうワケか涙に見えたらしい。
魔法発動ついでに回復したルックは、ユーバーに怒鳴る。


「どうしてくれるユーバー!セラが泣いてしまったじゃないか!!」
「そんなものは知らん!!ええい、セラ!そこへなおれ!!!」
「なおれって・・・あなたはいつの時代の人間ですかユーバー」
「あっ、ホラ見ろ!ウソ泣きだっただろう!!この女狐が!!!」
「・・・なっ・・・。ユーバー。なんてことを言うのです・・・!!」


そして涙効果抜群の『優しさの流れ』が連発された。
ルックとセラはやたら肌のつやが良くなっていくのに対し。
ユーバーが攻撃を受けたかのようにボロボロになっているのは何故か。


「・・・セラ。この魔法って、体力吸収能力とかあったっけ?」


流石におかしいと思ったのか、ルックがセラに訊ねる。
するとセラは涙を拭う仕草をしながらルックへ微笑んだ。


「少しでもお役に立てるかと思い・・・頑張って改良いたしました」
「そうだったのか・・・。ありがとう、セラ。僕のために・・・」
「ルック様のお役に立てるなら、セラはどんな努力も厭いません」


こんな感じでふたりの周囲だけ、空気がかわっていく。
そしてその隣には半分木乃伊になりかけたユーバー。


「も、もう許さん・・・」


三人のユーバーはフラフラと立ち上がり、剣を構える。
目が血走っていて、いい感じにやばくなっている。


「落ち着けユーバー。・・・まぁ、これでも食え」


そんなユーバーを諌めようとしたのか、アルベルトが声をかけた。
そしてそっと、うま○棒をユーバーに手渡した。


「そんな消耗した体力で何が出来る。第一、我らの目的は仲間割れだったか?」


有能な雰囲気を醸し出して言うアルベルト。
だが彼の手には、○まい棒(六本目)。
ついでに口の周りにも、う○い棒の食べかすがついている。
ハッキリ言って、説得力皆無。


「・・・ああ、そうだったな・・・」


しかしそんなのはユーバーには関係ない。
あっさり納得し、渡されたうま○棒を食べるために腰を下ろした。


「ちなみにお前たち三人で食べるなら、頑張って三等分するんだな」


冷静に言われ、ユーバーは分身たちと顔を見合わせる。
こんな小さいものを、しかも崩れやすいのにどうやって三等分するのだ。
なので、あっという間に分身を解除してユーバーは元に戻る。


「・・・ふぅ。やっと部屋が広くなった」


そんな風にアルベルトが呟いたとも露知らず。
ユーバーは何処か嬉しそうに袋を開けようとしていた。
だがふと動きが止まり、アルベルトへ視線を向けた。


「どうした、ユーバー」


視線を感じ、○まい棒(七本目)を食べながらアルベルトが訊ねる。


「お前、なっとう味を俺に寄越したな・・・。自分が嫌いだからって・・・」
「何を言う。少しでも頭が良くなってもらおうと思ったまでだぞ」
「俺には必要ない。そっちのたこ焼き味を寄越せ」
「残念だったな。これはもう私のだと決まっている」
「お前のものだという証拠は。名前でも書いてあるのか」
「書いてあるとも、ここに。ちゃんと読め。・・・字は読めるな?」


しれっと答えるアルベルトの持つ袋には、確かに名前が書いてある。
しかしユーバーはその字に思いっきり眉を顰めた。


「待て。この天才軍師とは誰のことだ」
「私に決まっているだろう。天才軍師アルベルト。何か不満か?」
「・・・お前、もしかしなくても馬鹿だろう・・・」
「お前には言われたくないな」


そして不毛な(というか馬鹿らしい)口喧嘩が始まる。
隣の低レベルな争いに、ルックはやってられないと大きく溜息をついた。
そして一発怒鳴りつけてやろうかと、息を吸い込んだ瞬間。


「この部屋か。家賃滞納してるってのは」


玄関の向こうから、涼やかな声がした。
声を聞き取った四人は一斉に黙る。


「ルック様・・・」


セラがルックへ視線を投げた。
ルックは目線で全員に「とにかく静かに」と指示する。
家賃滞納から早3ヶ月。いい加減にやばい。
しかも外から聞こえる声は、物凄く聞き覚えのあるものだ。


「今回も実力行使で黙らせればいいだろう」


ユーバーが小声でルックに言うが、ルックは首を横に振る。
しかしいざとなればそれしか方法がない。
いくら彼が強いといっても、人数で圧倒すれば――――。


「今日はここで終わりですね。じゃあさくさくお仕事しちゃいましょう!」


そしてルックは固まった。
彼だけじゃなかったのかと、思わず唇を噛む。
覚えがある。あのふたりの組み合わせは、最強だ。
いや、それこそ最凶で。場合によっては最恐で最怯で最狂で最脅。


「名前は・・・破壊者?何だコレ。よくこんなので部屋借りれたなぁ」
「えーっと、滞納日数は3ヶ月分です。謝罪金込みだと――――」


暫く外で何か聞こえていたが、すぐにドアが叩かれる。
どんどんどんどん!と、ただでさえボロいドアが悲鳴をあげた。
セラが魔法発動の構えを取り、「逃げますか?」と小声で訊ねる。


「それしかないね。・・・あのふたり相手は、分が悪すぎる・・・」


頷いて、セラが魔法を使おうとしたそのとき。


「魔法のニオイ・・・ホシは逃げる気です!!」
「ふぅん?そうはさせないよ。静かなる湖ー・・・っと」


セラは杖を掲げたままとまる。
そして申し訳なさそうにルックを見た。
そのルックは、思いっきり脱力している。


「破壊者さーん、とりあえず大人しく出てきてくれませんかねー」


どんどんどんどんどんどん!!


「破壊者さん。僕ら、ちょっと今後について話し合いに来たんですけど」


どんどんどんどんどんどんどんどんどんどん!!!!


「・・・駄目ですね。完璧居留守決め込んでます。扉、壊しますか?」
「そうだなぁ。なるべく壊したくはないんだけど・・・」
「最終手段としてはそれも許可するって言われてますよ?」
「ははは。要するに早く帰りたいんだね。分かった分かった」


その声が聞こえ終わるか否か。それほどの速さだった。
瞬間的な打撃音が聞こえたかと思うと、玄関からは傾きかけた太陽の光。
逆光の中でヒュンっと音がして、彼らの持つ武器が光を反射して踊った。


「こんにちは、破壊者さん。家賃滞納分、頂きに参りましたっ」


トンファーを持つやけにハキハキした人間の頭には、輪っかがついていた。
その姿を見て、ああ・・・と、ルックは思わず頭を抱えたくなる。
彼は15年前も同じようにとてもハキハキしていた。
そして15年前も同じように、よくあちこち壊していた・・・。


「取立てWリーダー、取立て英雄の異名を持つ僕らから逃げるのは無理さ」


棍をヒュンっと一振りして笑む人間の頭には、バンダナが巻かれていた。
その姿を見て、うわ・・・と、ルックは再び頭を抱えたくなる。
彼は18年前も同じように笑っていた。
そして18年前も同じように、センスの無い名前を城に付けていた・・・。


「何がサゴ城だよ・・・。沙悟浄の洒落のつもりか・・・」


水辺に住む身だし、ピッタリだよねー。と、笑うかつての彼の姿。
思い出して小さく愚痴ったルックを、破壊者一行は不思議そうに見る。
ルックは思いっきりしかめっ面をして、仮面をかぶった。
こうなったら魔法無効の効力が切れるまで、凌ぐしかない。


「ユーバー、時間を稼げ」
「殺さなくて良いのか。俺は殺したいんだが」
「・・・あいつら、殺したって死なないよ・・・」


昔は彼らの何ともいえないカリスマに引っ張られたものだが。
今はそんなことを言ってる場合ではない。
むしろ彼らに正体がバレたら、それこそ何を言われるか。
大笑いしたのち、彼らの国中に言いふらすに決まっている。
リョウはトランを中心に。リオンはデュナンを中心に。
尾ひれや背びれは当たり前。考えるだけで恐ろしい。


「とにかく、我らの正体がバレないように逃げる」


面白くなさそうにユーバーが頷いたのをみて、ルックたちは後方へ引く。
戦士にとって、魔法の使えない魔術師ほど邪魔なものはない。


「・・・あ。見たことあるのがいますね、リョウさん」
「そうだね。見たことあるね、リオン。誰だっけ」
「えーっと・・・あの金髪はすっごい憶えてるんですけどー・・・」
「それにあの馬鹿そうな顔。憶えてるんだけどなー。名前が出てこない」


ユーバーを見て、ふたりは頭をひねる。
その様子に「何年経っても馬鹿は馬鹿か・・・」とルックはこっそり思った。
その隣ではセラが「馬鹿対決。これはこれで見ものですね」とか思っていた。


「あ、そうだ!ペシュメルガのそっくりさんですよ、リョウさん!!」
「あー、そうだそうだ。ペシュメルガのそっくりさんだね、リオン」
「でもでも、ペシュメルガの方が数倍はカッコイイですよね」
「ふふ、何でか知らないけど。きみはペシュメルガに懐いてたもんね」
「所詮はそっくりさん!本物には敵わないですよー!!」


なおも続く彼らの会話に、ユーバーはぶるぶると肩を震わせる。


「いい加減にしろ!俺の名はユーバーだッッ!!!」


怒鳴って、大きく肩で息をするユーバー。
それを見てふたりの少年は、「ああ!」と頷いた。


「そうそう、そんな名前だったと思ってたんだよ」
「えー、それならそう言ってくださいよー」
「貴様ら、昔戦った相手の名くらい憶えておけ!!」


のほほんと会話するふたりに、ユーバーは再び怒鳴る。
するとかつての英雄たちは、声をそろえて言った。


「「だって、最後まで戦わずに逃げたし。脱走者は記憶に薄いから」」


ユーバーが真っ白になっていく。
何故だろう、酷く屈辱的なのだが。


「それにアイン・ジードとバルバロッサが印象強すぎてさ」
「僕もハーンさんとかクルガンやシードの見事な散り方の印象が強くて」


がくり、と、ユーバーが膝をつく。
戦う前から負けそうな勢いだ。


「―――って、戦うんじゃなくて。破壊者さん。お金払ってください」


15年前の英雄リオンが、にこにこハキハキしながら軌道修正する。
18年前の英雄リョウも、ああそうだったと書類を取り出した。


「家賃滞納3ヶ月分と謝罪料や手数料込みで、1500000ポッチね」


告げられた額に、破壊者一行が凍る。
すぐにユーバーが噛み付いた。


「違法な高さだ!おかしいぞ、ソレは!!」
「そうですか?家賃滞納分15000ポッチ、謝罪料15000ポッチ」
「で、手数料が1470000ポッチ。計算あってるよね、リオン?」
「はい。どこもおかしくないです。バッチリですよ!」


笑顔で言い返され、ユーバーは後ろへ視線を投げる。
流石にやばいと思ったのか、アルベルトはう○い棒(八本目途中)を置いた。
そしてゆっくりとした足取りで、微笑みながらふたりの少年に近づく。


「失礼。手数料1470000ポッチというのはどこから算出したのです?」


その問いに、リオンがにっこり笑いながら答える。


「移動料、会社に入るお金、人件費が主です!」
「私はその振り分けをお聞きしたいのですが」
「簡単ですよ。移動料、会社に入るお金が70000ポッチですね」
「残り1400000ポッチの振り分けは?」


訊ねられ、リオンはきょとんとした顔になった。
そして再びにっこり笑い、さも当たり前に言ってのけた。


「全額人件費。つまり僕らのお給料です!!」


アルベルトが胡散臭い笑顔を貼り付けたまま動かなくなる。
彼らの後ろで聞いていたルックたちも、唖然とした。


「正しくは山分けだから、ひとり700000ポッチだけどね」


リョウによって引き継がれたその言葉に、破壊者一行はトドメを刺された。
有り得ない。何だその高所得は。神官将だってそんなに貰えない。
落ち込むルックの隣で、セラが顔を覆って泣き崩れた。


「ああ、どうしてこんなにも差があるのでしょう・・・!」
「・・・セラ・・・」


泣くセラに、部屋の中は静まり返る。
リオンはリョウを見上げ、リョウはリオンに視線を合わせた。
そしてリョウがセラの前に屈み込み、微笑みながら言う。


「泣くのは勝手ですけど、お金は払ってもらいますから」


セラの舌打ちは、一体何人が聞いただろうか。


「ちょ、ちょっと待って・・・。そんな大金、今すぐに払えるとでも?」


運良く(?)セラの舌打ちが聞こえなかったルックは、ふたりに縋る。
再び顔を見合わせる少年ふたりに、ルックはなおも畳み掛けた。


「家賃も払えてないのにそれだけのお金があるはずないだろう」
「それはわかってるけど、でも取立てるのが僕らの仕事で――――」
「僕らはただのしがない魔術師と戦士と駄菓子好き軍師の集まりだよ」
「最後のが何かおかしいけど、まぁこの際どうでもいいや。あのさ」


リョウはルックの肩に手を置き、にっこり笑う。


「ほら、ダンジョンボス数体倒せばすぐじゃないか」
「魔術師と戦士がいれば、楽勝すぎるほど楽勝ですよ!」
「そうそう、僕らはふたりで十分倒せたもんねぇ」
「ハッキリ言って弱かったですしねっ。もっと手ごたえあるのがいいです!」
「ははは、相変わらず強い相手を求める闘争心は丸出しだね」


リョウと一緒にまたもやにっこり笑ったリオン。
彼らの会話に頭痛を感じながら、ルックは項垂れた。
このままいくと連行される。そして今日一日戦い通しになる。


「ネメシスあたりが妥当かなぁ。他のはもっと弱いし」


リョウとリオンが相談を始めると、セラがバッと立ち上がった。
そして杖を掲げ、あっという間に呪文を詠唱する。


「3ターン過ぎました!逃げましょう!!」


言うが否や、彼らはふたりの目の前から姿を消した。
・・・ユーバーを置いて。


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


呆然とするユーバー。
あーあ、という顔のリョウ。
相変わらずにこにこ顔のリオン。


「すっごい見事に置いてかれちゃいましたねー」


リオンの口撃(悪意なし)。
ユーバーに150のダメージ。


「ここぞとばかりに捨てられたんじゃない?」


リョウの口撃(悪意あり)。
ユーバーに200のダメージ。


「あ、あいつら・・・・ッッ」


わなわなと拳を振るわせるユーバーに、リョウとリオンが笑う。


「とりあえず、ダンジョン行こっか。さっさと終わらせちゃおうよ」
「僕らだってお金さえ払ってもらえればいいんですしねっ」
「とか言って。リオン、早く帰りたいだけなんだろう?」
「えへへ。だって今日はリョウさんが手合わせしてくれるんでしょう?」
「まぁたまにはね。やっぱりリオンとの手合わせが一番楽しいし」


あはははは〜と笑う取立て屋の少年ふたり。
落ち込む置いてけぼり人外のユーバー。


「・・・すぐにお金が手に入る方法がひとつあるよ」


そんなユーバーに、リョウはそっと囁いた。
その言葉にユーバーが顔を上げる。


「いい金融会社を知ってるんだ。そこで借りればいい」


典型的な悪徳商法。ルックがいたならすぐに断ることだろう。
しかしユーバーはそんなのにも期待通り思いっきり引っかかる。


「どんな会社だ」
「リオン、書類を」
「はーい」


すっと差し出された書類。


「・・・シュウ金融会社?」
「僕の信頼してる人が経営する会社ですよ」


でかでかと会社名の書かれた書類を見て、ユーバーは考えた。
とりあえず、このふたりから一刻も早く開放されたい。
こいつらを殺すのはまた今度でいい。今はただ、ここから逃げたい。
考えて、ふたりに頷いた。


「しかし俺は身分証明なんぞ持ってないが」
「あ、大丈夫です。保護者の身分がわれてますから」
「保護者・・・?ああ、ルックのことか。しかしあいつが保護者・・・」


言いながら、ユーバーは目の前のふたりの顔の変化に気付く。
それはもうさっきよりも数倍楽しそうな顔の少年たち。


「聞きましたかリョウさん!やっぱりルックだったんですよー!!」
「マジで!?マジで!!?あいつ、仮面の趣味悪すぎだろっ!!」
「あはははっ!あんなの、どこ探したって売ってませんよねー!!」
「案外、手作りだったりしてね!・・・あぁ、お腹痛い・・・!!!」


大爆笑するふたりに、暫しユーバーは呆然としていた。
しかしこれはチャンスとばかりに、玄関へ走り出す。
だが走り出した身体はがくんと前へ倒れ、そして激痛が走った。


「逃げちゃ駄目ですよー。それにしても変な走り方ですねぇ」


天然に毒を吐き散らしながら、リオンがユーバーを捕らえている。
リョウがやれやれと肩をすくめながら、リオンに笑いかけた。


「偉いね、リオン。よく捕まえてくれた」
「いいえー。僕も丁度この卍固めを試してみたかったですし」
「リオンは最近サブミッションにはまってるもんね。怖い怖い」


サブミッションというのは、要するに関節技。
ばっちり決まると、マジで痛い。
そしてユーバーには、勿論ばっちり決まっている。


「さ。それじゃ、そろそろ行こうか」


リョウの言葉で、リオンがユーバーを解放した。
あまりの痛さにぐったりしているユーバーをひょいっと担ぎ上げる。
顔に見合わず怪力なリオンは、そのままリョウに笑いかけた。


「ルックたちの借金、雪だるま式になると思います?」
「なるね。その際の取立ても、また僕らが請け負うと思うよ」
「楽しみですねー。一国のリーダーなんかしなくて良かったです」
「うんうん。それ、同感。こんな楽しいこと、滅多にない」


念のためにと静かなる湖の札をユーバーにぺたぺた貼りながらリョウも笑う。


「仕事が終わったら手合わせして、グレミオのシチューでも食べようか」
「えっ、いいんですかー!僕、グレミオさんのシチュー大好きです!」
「ありがと、グレミオも喜ぶよ。そのあとは、ちょっと作戦会議しない?」


ついでとばかりにユーバーをロープでぐるぐる巻きにして、リョウは続けた。
リオンはその言葉に「?」と不思議そうに首をかしげる。


「ルックの噂。どういう尾ひれ背びれ付けて広めるか、さ」


ウィンクしながら言うリョウに、リオンも一層破顔する。
ルックの予想は間違いなく見事に的中した。
















そして数日後。


「・・・髪を売っても、これだけにしかならないのか!!」


ルックの声が、潜伏中の岩山に小さく響いた。
その隣にはセラ。正面にはアルベルト。
少し離れた位置に、ショートカットのユーバー。


「ブラックリストに載ってしまったのでしょう。それ以上高値では無理です」


しれっと言うアルベルトは、隠し持っていたうま○棒を今日も食べている。
セラはそんなアルベルトと、失意に沈むユーバーへ今日も魔法をかける。
体力吸収能力つき『優しさの流れ』は毎日絶好調だ。
ルックはセラのおかげで生き延びているが、電卓を持つ手は震えていた。


「駄目だ。三人分の髪でも30000ポッチ・・・。全然足りない」


何処へ逃げても、何故か毎日のように督促状が届く。
督促状を見れば見るほど、借金の額は増えている。


「あなたのせいですよ、ユーバー」


ユーバーに向けられるセラの視線は、まるで絶対零度のようだった。
心なしか凍りながら、ユーバーは気付かれないように溜息をつく。
俺の人生、間違ってないか?と、思ったり思ってなかったり。
再び溜息をつこうとしたとき、岩山が崩れるような音が周囲に響いた。
ガラガラと崩れ落ちるのは、目の前の岩山。


「・・・今日も来たか・・・」


うんざりするルックの前に、元気な声が飛んでくる。


「ユーバー、ユーヴァー、湯婆婆、全部同一人物だとバレてます!」
「筆跡鑑定ナメちゃ駄目だよ。さ、皆さん。借金返してもらえるかな?」


繰り出される攻撃を避けながら、ルックは頭痛がするのを感じた。
こいつら、明らかに楽しんでいる。それしか考えようがない。
それに最近、色々な噂を聞くのだが。


「内職で仮面作ってるとかいう噂を流したの、アンタらだろ・・・!」


もはや仮面をかなぐり捨てて、ルックがふたりに怒鳴る。
少年ふたりはというと、それを聞いて笑顔になった。


「違うよ。内職で売れない仮面作ってるって流したんだって」
「あれ?リョウさん、内職で趣味悪い仮面作ってる、じゃなかったですか?」
「そうだっけ?まぁどっちでもいいよ。いやぁ、噂って広まるの早いよね」


色々な声を響かせながら、岩山はどんどん崩れていく。
やがてまたセラが魔法を発動させたのか、破壊者一行は姿を消した。
最初で懲りたので、それからはちゃんとユーバーも同伴だ。
すっかり荒れた岩山で、取立てのふたりは笑う。


「いくら逃げても、居場所なんてすぐわかっちゃいますよねぇ」
「シュウ金融会社のお持ち帰り自由なボールペン、まだ持ってるからね」
「面白いですね。アレに発信機が着いてるっていい加減気付けばいいのに」
「仕方ないよ。それほど切羽詰った生活してるんだから」
「それに、僕らも楽しめますしねー」


ひとしきり笑ったあと、リョウが「じゃあ帰ろうか」とリオンに声をかける。
頷いて、リオンは作詞作曲した「明日も元気に取立て」を歌った。











一方、浜辺で海の音を聞きながら、ルックはひとり呟く。


「・・・これも、紋章の意思か・・・」


―――それとも、あいつらの呪いか―――。
ざっぱあぁぁん・・・と、呟いた言葉は波音に飲まれた。












   ――――借金するとロクがことがない、というお話。(強制終了)





  後書きという名の逃げ言葉で詫び言葉な言い訳
キリ番900ヒットのリク、破壊者でギャグ・・・でした。
が。気付けばひたすらユーバーを苛めよう、みたいな状態になってました。
しかも趣味で出したWリーダーがどうしようってくらい動く動く。
途中から、見事にメインであるハズの破壊者たちを喰ってしまいました。
これじゃまるでWリーダーの湯葉苛めですね。楽しかったですが(ぇ)

では、今回の彼らをどう書きたかったのか。
ルックはひたすら苦労性です。そろそろ胃に穴があきます。
セラは自分とルックがいれば他はどうでもいいような人です。
アルベルトは馬鹿と天才を紙一重で行く、どちらかというと馬鹿です。
ユーバーは言わずもがな、な苛められ役です。不幸なのがハマりすぎです。
坊っさんことリョウは爽やかに歪んだ凄腕借金取立て師。ネーミングセンス皆無。
2主ことリオンは正統派馬鹿な凄腕借金取立て師。笑顔と馬鹿力が取り得。
・・・設定だけ見たら、一応はギャグなんですけどねぇ・・・。

ちなみにサゴ城ってのは、私の幻水1ファーストプレイの城の名です(・・・)
ではでは、無駄に長い作品ですがよろしければお納めくださいマセ。

   〜清涼様へ捧ぐ〜

               和沙倉恵・拝


借金取りWリーダーがやけに気に入ってしまったことは内緒です・・・。
続き、書いちゃったらどうしよう・・・(爆)






女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理