ねむりのまえに
〜趙雲と劉備〜



あなたの匂いに包まれていると、安心します。
と、臆面もなく言い切られたのを思い出して、劉備は少し照れる。


「・・・まったく、タラシだよなぁ。お前」


腕の中にいる人物の髪を梳きながら、小さく呟いた。
暫く髪を梳いて遊び、腕を下ろす。


「私の匂いって、どんなだろう・・・」


安心する、と言われたからには、嫌なものではないはず。
更に、この猛将を眠らせることができるほどの、匂い。
答えをくれる人物は眠っていて、口を開く様子もない。


「趙雲」


呼んだ。
呼んで、再び、髪に触れた。


「私の匂いがどんなだかは知らないが、でも、子龍」


そのうちに、劉備の目蓋が、とろりと下がってくる。
押し寄せてくる眠りの感覚に、劉備は、逆らおうとはしない。


「私の匂いで、お前が安心するなら、」


髪を梳いていた手が、趙雲の頭の上で、とまる。
眠りの感覚は、もう、劉備のほとんどを支配している。


「私は、この匂いを持てたことを、幸せに思うよ」


それでも、全部言い切って。
目を閉じた劉備の腕の中で、趙雲が、心底幸せそうに笑った。









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