「黒崎!初詣だ!!」


12月31日。夜。
突如押しかけてきた人物にそう言われ、一護は動きを止めた。








初詣







「何で、新年早々・・・お前らなんかと・・・」


人込みの中をブツブツ言いながら歩く一護の隣には、二人。
除夜の鐘が鳴るのを聞きながら、三つの影が夜道を歩く。


「まァまァ、そう言わずに。これからも色々付き合いがあるワケですし」


カラカラと笑い、一護の右隣で楽しそうに歩くのは浦原喜助。
死神の一護とは確かに、付き合いがある。現在進行形で。


「っていうか誘ったのは僕だぞ!何であなたまで・・・!!」


不服そうなのは一護の左隣を歩く石田雨竜。
キスケに敵意丸出しの視線を送りまくっている。


「あーもー、いいからさっさと行くぞ」


両隣が非常に煩いと思いつつ、溜息をつきながら一護は歩く。
その背中には、周囲の人が見れば必ず笑いをこぼすものが引っ付いていた。
不機嫌な男子の背中に引っ付いているのは、どうみてもぬいぐるみ。


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


ぬいぐるみに気付いた両隣の二人は、思わず顔を見合わせる。


「・・・取っちまいますか」


ぼそりと呟いたキスケが、一護の背中に手を伸ばした。
そしてぬいぐるみの頭部を、むんずと掴む。


「痛ぇ!てめッ、何しやがる!!」


べりべりと剥がすようにして一護の背中から離されたぬいぐるみ。
彼は自分を剥がしたキスケに、いきなり食って掛かった。
頭を掴まれじたばたと暴れる様子は、まるで電動ぬいぐるみのようだ。


「折角ここまで気付かれなかったっていうのによー!!!」


叫ぶぬいぐるみの口を、雨竜が塞ぐ。


「こんな人込みの中、大声を出すな。大騒ぎになるだろう」


言った雨竜の顔が一瞬だけ歪んだ。と同時にぬいぐるみを掴みあげる。
ぬいぐるみが噛んだのだ。痛くは無いが。・・・ぬいぐるみだから。
何となく屈辱を味わった感じで、雨竜は目を細める。


「・・・きちんと塞いでやろうじゃないか・・・」


眼鏡がキラリと光り、雨竜は自分の鞄に手を伸ばす。
スゥっと出てきたのは、愛用のソーイングセット。


「可愛くピンクの糸で縫い付けてやろう!!」


人込みの中でぬいぐるみ相手に怒鳴り、針を取り出す男が一人。
それはそれで注目を集めていることに気付かない。


「お前、何でソーイングセットなんか・・・っ」


震える声でぬいぐるみが言う。
雨竜は眼鏡をくいっと指先で押し上げると、不適に笑った。


「黒崎に渡すものを作っていたからな!その流れだ!!」
「わ、渡すもの・・・?」


段々と声が小さくなっていくぬいぐるみ。
それは彼らにコンだとか、一部にはボスタフだとか呼ばれている。
そして死神になったときの一護の抜け殻に入る役割を持っているのだが。
雨竜にとって、そんなことはとりあえず関係ない。
兎にも角にも、邪魔者は滅殺あるのみ。


「夜鍋して、夜鍋を通り越して今日までかかってしまった」


片手にコンを摘み上げ、もう片方の手を再び鞄へ伸ばす。
そして取り出したものを意気揚々と掲げて見せた。


「家内安全、健康第一、安産祈願の御守りだ!」


前のフタツはまだ良いとして、安産祈願・・・?
コンは首を傾げるが、雨竜は構わずに続ける。


「どうだこのデザイン!黒崎の好みがなかなかつかめなくて苦労した」


デザイン・・・。
コンが、今度は眉を寄せた。


「コレ、どう見てもお前じゃねぇか」
「当然だ。苦労して僕の姿を刺繍したんだからな」
「これが一護の好みのデザインだと?ケッ、笑わせんな」


直後、再び喧騒。


「うるせーなァ」


背後の大騒ぎに、一護は顔を顰めていた。
そして両隣が静かなのに気付く。


「・・・思いっきり、はぐれてんじゃねーか・・・」


いつの間に一人で歩いていたのやら。
背後の大騒ぎの場所は、遥か遠い。
そして大騒ぎの声の主が、とても聞き覚えのあるような。


「・・・・・・・・・」


少し考えて、そして一護はお構いなしに前進した。
人込みの中、立ち止まるととても迷惑だ。
実際、後ろから何度も押されているので、波に逆らわずに進む。
一護からすれば、人を誘ったくせに騒いでいる方が悪いのだ。
こうなれば一人でさっさと初詣を済ませて、帰るのみ。


「自業自得だ」


小さく呟いて、初詣の順番がくるのを待つ。
しかしその間にも後ろからは何度もぐいぐいと誰かが押してくる。
流石に少しムッとして、こんなに押して来るのは誰だと振り返った。


「・・・・・・・・・」


そして、露骨に嫌な顔をして止まる。


「やだなぁ、そんな嫌そうな顔しないで下さいよー」


聞こえてきたその明るい声に、今度は眉間にいつも以上の皺が寄る。


「・・・あいつらと一緒にいたんじゃ・・・」
「いやぁ。アタシね、あーゆー不毛な争いは嫌いなんスよ」


険しい顔をした一護に、キスケは相変わらずニコニコと笑う。
それから一護の肩に手を置き、前へ進むように促した。


「当人のいるところでならともかく、いないのに争うのはねぇ・・・」
「何だ?何か言ったか?あーくそ、後ろが煩くてよく聞こえねぇ」


ぽつりと呟いたのに、振り向く一護にキスケは再び笑う。
内容は聞こえなくとも、声だけでもちゃんと聞いてくれたのかと。
こっそり嬉しく思ったが、あえて何も言わずに。


「何でもないっス。あ、もう少しで順番ですねぇ」


のほほんと言い放ち、何処から取り出したのか扇子で口元を押さえた。
ニヤケ防止のためだろうか。


「それにしてもキスケさん。よく俺見つけたな。こんな人込みなのに」
「そりゃ分かりますよー。なめてもらっちゃ困りますね」


笑いとともに言いながら、ふとキスケは笑みを消した。


「ま、あいつらも騒ぎに飽きたら来るか。俺の頭、いい目印だし」


その視線は「できればこのまま静かに帰りたいけどな」、と続ける一護。
キスケはまた少しだけ口元に笑みを復活させて、目を閉じた。


「・・・目印、ねぇ。それが困るんスよ」


小さく呟くと、また一護が不思議そうにキスケを振り返る。
振り返った直後、一護の頭にはキスケの帽子が乗せられていた。


「・・・へ?」


意味が分からず帽子へと伸びた一護の手を、キスケの手が上から押さえる。


「取っちゃ駄目ですよ」


その表情は、カラカラと明るく笑うものではなく、目を細めた微笑。
声は、大きくはなかったが、キスケが少し体勢を低くして一護の耳元で。


「騒がしいのが来ちゃうでしょう?」


呟いたものだから、一護にはちゃんと内容が聞き取れた。
人の流れに任せてじわじわと前進しながら、キスケは一護の顔を窺う。
直後。


「・・・・・・・・・ッッッ!!!!」


声にならない悲鳴を上げ、一護の全身に鳥肌が立った。
ものすごーく嫌そうにキスケを睨みつけるその顔色は、青い。


「男に耳元で囁かれた・・・ッ!」


鳥肌がおさまらず青い顔の一護に、キスケは苦笑とともに溜息をついた。
一応、アレは一護をオトすための声と顔だったのだが。


「黒崎サンは、まだまだ子供ですねぇ」


仕方ないかと笑うと、一護はキスケに今にも噛み付きそうな顔をする。


「あぁホラ、順番きましたよー」


キスケはそれにも笑って前を促した。
不服そうではあったが、一護は賽銭を取り出して正面を向く。
賽銭を投げると、静かに目を閉じて手を合わせた。


「・・・・・・・・・」


何を願っているのか、と、キスケはその横顔を見ながら思う。
少なくとも自分のことではない。多分、いや、きっと、家族のこと。


「何してんだよ」


ぼんやりと一護を見ていたキスケは、声をかけられてふと我にかえる。
声をかけた一護は、不思議そうにキスケを見ていた。


「早く賽銭入れろよ。あとがつかえてんだ」


その言葉を受けて、キスケも財布を取り出した。
財布の中からは十五円を取り出して、勢い良く放る。


「じゅーぶん、ご縁がありますようにー!」
「・・・それなら四十五円のがいいだろ」


賽銭を投げ入れてから言う一護に、キスケは苦笑した。


「じゃ、奮発して更に四十五円!始終、ご縁がありますよーに!!」
「・・・お前、アホだろ・・・」


十五円は、十分ご縁がありますように。
四十五円は、始終ご縁がありますように。
どちらも良縁を求めるもの。
そこまで人間関係に恵まれていないのかと、一護はこっそり思った。


「さ、初詣終了!黒崎サン、何か食べますか?夜店がいっぱいで・・・」
「俺は帰る。さっさと帰ってさっさと寝る。じゃあな」


キスケが全て言い終わる前に、一護はスタスタと歩き出す。
一度も振り向かず、あっという間に視界から消えてしまった。


「やれやれ」


苦笑しながら、キスケも境内から再び人込みへとまぎれる。
そしてその腕を、誰かが掴んだ。


「黒崎はどこだ!?」


掴んだ主は、雨竜。
髪がボサボサになり、眼鏡も少しズレている。
おそらくはコンと争っているうちに、人込みに潰されたのだろう。


「初詣も終わったから、って、帰っちゃいましたよ」


さらりとキスケが答えると、雨竜はその場に崩れ落ちる。
流石にこれは迷惑か、と考えたキスケは、雨竜を引っ張って道から外れた。


「黒崎サンほっといて、争いごとなんか起こすからですよ」
「う、煩い!あなたに僕の何がわかるんだー!!」
「はぁ、まぁそうですねぇ」


なんだかもうよくわからない雨竜の嘆きを適当に聞き流す。
人込みから外れ、ひんやりとした空気を味わう。


「そういやアンタ、帽子はどうしたんだよ?」


その空気に触れ、人の少ない状況だと判断したコンが雨竜の鞄から顔を出した。
口には少し縫われたあとと、ピンクの糸クズがついている。
どうやら本気で少し縫われたらしい。


「あー、そういえば・・・帽子・・・」


しかしあえてそこにはツッコミを入れず、キスケは己の頭に手を置いた。
一護が帽子をかぶったまま帰ってしまったのだ。


「・・・ま、いいっス」


ボサボサの髪の毛に触れながら、キスケは薄く笑う。


「さ、お二方。初詣が済んだら寄り道しないで帰るんスよー」
「なっ・・・こ、子ども扱いするなっ!!」
「アンタはどうすんだよ。一護とすれ違ったんだろ?」
「いえ、アタシは黒崎サンと一緒に済ませましたし。それでは」


さらりと勝利宣言をして立ち去るキスケの後姿に、怒鳴り声が降った。
何を言っているかはあえて聞く気もしないので、完全無視だが。

















浦原商店の前で、キスケは思う。
我ながら、ベタな考えをしたものだ、と。
十五円。1と5で、一護。
そして、四十五円で始終ご縁がありますように。


だが。


「おやおや」


一護と、始終ご縁がありますように。
賽銭のご利益は確かにあった。しかも、即行効果で。
浦原商店の前で、帽子を持って立っているオレンジ頭。
目印にとても役立つその色を見ながら、キスケはそうも思っていた。
















後書きという名の逃げ言葉で詫び言葉な言い訳
キリ番6000ヒットのリク、キスケ×一護orコン×一護or雨竜×一護でした。
とりあえずツッコミ。何じゃコリャ!!!
最終的にはキスケ×一護を目指したつもり・・・なんですけど。
やたら中途半端です。申し訳なさすぎて爆発しそうです。
話自体も、ギャグなのかほのぼのなのか謎。
更に季節感無視しまくり。2月に正月話かい。
そして一番詫びねばならないこと。出来上がりが遅すぎ。
亀並みどころか、亀にも到底及びません。
阿惣玄也様、こんなので良かったら貰ってやってください・・・。
出来上がりが遅すぎで本当に申し訳ないです・・・。
ってか、どっかで使われてそうなネタですよね・・・。ひぃぃ(泣)


〜阿惣玄也様へ捧ぐ〜

和沙倉恵・拝
















そしてこっそり私信。
阿惣玄也様ことゲンゲンこと愛しき養子へ(長)


本気で出来上がるのが遅すぎたんで、ジャンルかわってそうで怖いんですが;
それでも何とか書き上げました!!・・・遅かったけど。
年賀状とかもくれたのに返せなくて、駄目駄目な父です。
なので、年賀状代わりに正月話になりました。
あのエドには到底叶いませんがね・・・!!
新年からやたら萌えちゃったじゃないか、養子よ!!!
そんでもってもうヒトツ。
これは、卒業祝いでもあります。
年賀状代わりのと一緒にすんなって感じですが。

ではでは。卒業、おめでとう。



しかし後輩からリクされると、緊張するやね(苦笑)





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