「ウィタ殿が・・・部屋から出てこない?」






真っ赤なお鼻の




「な、何故っ!?」
「私が聞きたいくらいだ」

突然もたらされた情報に、マイクロトフは慌てた。
そしてその情報をもたらしたカミューへと詰め寄る。
しかしカミューは溜息とこの一言でそれをかわし、また溜息をついた。

「今はハイランドにも大した動きはないが・・・このままだと」

そう呟くカミューの視線は、マイクロトフへ。
それに気付いたマイクロトフは、「何だ?」と目線で返す。

「・・・お前、様子を見て来い」
「なっ!?何で俺が・・・っ!!?」
「恋人なんだろう?」

さらりと言ってのけたカミュー。
マイクロトフは金魚になったかのように、口をパクパク動かした。
何故知っている、と訴えているのだろう。
カミューは妙に冷たい視線でマイクロトフを見た。

「寝言で、どれだけ惚気ていると思っている」

その口調には、苛立ちがこもっていた。

















「寝言か・・・」

マイクロトフは頭をかきながら階段をのぼっていた。
カミューの話だと、遠征中であれ戦争中であれ、自分は寝言で・・・。

「何て失態をしてしまったんだ、俺は・・・」

いつか自分の口から言おうと思っていた。
せめて、カミューだけにでも。
彼のウィタに対する想いを知っていたが、黙っていた。
知っていたからこそ、黙っていた。

「いや・・・これは、逃げ言葉だな」

軽く首を振って、次の階段へと足を踏み出す。
この階段をのぼりきってしまえば、そこはウィタのいるフロア。
少しずつ、のぼる速度が速くなっているのを彼は知らない。

「おや、ナナミ殿」
「あ、マイクロトフさん」

最後の段をのぼりきり、五階へ辿り着いたマイクロトフ。
そこにはカラになった食器を持ったナナミがいた。

「ウィタ殿が部屋から出てこないと聞いたのですが・・・」

そう切り出すと、ナナミは少し苦笑を浮かべる。

「どこか、具合でも悪くされているのでは・・・?」
「あ、えっとね。そうなんだけど違うの」

たずねても、イマイチ要領の得ない答えが返ってくる。

「んー・・・マイクロトフさんならいっか。ウィタ、ウィター?」

それから少し何か考えていたナナミが、勝手に自己完結したらしい。
どんどんどんどん!と、ウィタの部屋のドアを叩きまくった。

「何、ナナミ」

部屋の中から、声が聞こえた。
思わずマイクロトフが声の方向へと顔を向ける。

「あのね、今マイクロトフさんが来てるんだけどー」
「えっ・・・!?」

ウィタの声が上ずった。
しかしナナミはお構いなし。
何度かマイクロトフの方を見て、ウィタに声をかける。

「大丈夫だよね、中に入れても」
「ちょ、ちょっと待ってよナナミ・・・っ!」
「ダーメっ。明日からお姉ちゃん遠征でいないんだから」

協力者が必要でしょ?だとか、そんな会話が聞こえてくる。
当然、聞いているマイクロトフは何の事だかわからない。

「あ、ほらウィタ。マイクロトフさん帰っちゃうよ!いいの?」

突然ナナミがマイクロトフにしっしっと手で合図を送ってきた。
帰るフリをしろ、という事らしい。

「あ・・・じゃあ、その、俺はお邪魔みたいですし・・・これで」

少しどもりながらも、マイクロトフは何とかそう告げて階段を数歩おりる。
ブーツの音が、フロア一帯に静かに反響する。
半分くらいまでおりたとき、大きな涙声が聞こえた。

「マイクロトフはお邪魔じゃないもんッ!!!!」

その言葉の直後。
三段飛ばしぐらいで階段を駆け上がるマイクロトフがいた。












「・・・あの、ウィタ殿?」

相変わらず少し散らかっていて、でもそう見えない部屋。
中に入れてもらったはいいが、マイクロトフは困っていた。

「その、何故・・・そのような格好を?」

マイクロトフが声をかけた先。
丸くなっているタオルケット。それだけ。
ウィタがそのタオルケットに丸まっているのはわかるのだが。

「えーっと・・・お体の調子でも悪いのですか?」
「・・・んーん、悪くない」

タオルケットがもぞもぞと動く。
丸い塊がぴょいっとベッドの上に飛び乗る。
そしてまた丸まる。

「お姿を俺に・・・いえ、皆に見せないのは何故ですか?」

丸い塊の一部が崩れて、ウィタの右目だけが見えた。
じっとマイクロトフを見る。

「笑ったら、怒るから。あと、泣くからね」

声は涙声で。
何度か躊躇ったあと、ウィタはタオルケットから抜け出した。

「僕、鼻炎持ちなんだ。それで、前から鼻水がとまらなくて」

丸い塊から抜け出したものの、俯いた状態でウィタは言う。

「花粉症も併発してくしゃみもすごいから、部屋を出ないようにしてた」

それでか。と、マイクロトフは内心納得した。
しかしそういう理由なら、公表してもいいだろうに。
そう思ったが、口をつぐむ。

「・・・何で、そんな理由なら皆に言わないんだって思ってるでしょ」

思いっきり図星で、マイクロトフは反射的に頷いてしまった。
軍人たるもの、瞬時の判断が必要で、条件反射というものだろう。
いや、彼は軍人ではなく騎士だが。

「皆、優しいから絶対ここに来るもん・・・」

思い切って、マイクロトフはウィタに近づいてみることにした。

「鼻炎とか花粉症が理由じゃ、追い返せないし」

ウィタの目の前に立つ。

「昨日、やっとどっちも落ち着いてね。だけど・・・」

ウィタが恥ずかしそうに、だが思い切ったように顔を上げた。

「こんな、真っ赤な鼻で皆の前に出たくないんだもん〜〜!」

鼻のかみすぎだ。
ウィタの鼻が荒れて真っ赤になっている。
マイクロトフが固まった。

「ナナミに協力してもらって、ご飯とか運んでもらってたけどっ!」

固まったマイクロトフを見て、ウィタが泣きそうになる。
一応、彼にも城主、盟主、軍主といった立場とプライドがある。
面白いほどに赤くなった鼻を見て、笑われたくなかったのだろう。

「ナナミは明日から遠征に行かなきゃ駄目だし・・・っ!」

もう一度タオルケットをかぶろうとしたウィタを、大きな手がとめた。

「・・・何だよっ、笑うなら笑ってくれたほうがいいっ!!」
「いえ、あの・・・申し訳ありません」

先程は笑うなと言ったのに、笑うなら笑えと矛盾した事を言うウィタ。
半ば自棄になっているが、マイクロトフはそんなウィタをじーっと見る。
視線は明らかに真っ赤な鼻を中心とした、ウィタの顔へ。








「可愛いなぁと・・・思いまして」








頬をほのかに染めたマイクロトフが、ぽつりと言った。
途端、ウィタの顔が鼻に負けないくらい真っ赤になる。

「な・・・っ、だって、僕、こんな・・・」
「可愛いです。本当に・・・」

マイクロトフは真顔で嘘がつけない。
ましてや、自分に対して嘘などつけるはずがない。
わかっているから、ウィタの顔は火をふくのではと思うほど赤くなった。

「普段も可愛いですが、いつもと違って、今日もまた可愛いです」

言った直後、自分が何を口走ったのか理解したマイクロトフ。
ウィタと同じくらい赤くなってしまった。

「・・・僕、こんな変な顔なのに」
「変じゃないです」

赤くなりながらも、マイクロトフはキッパリと言い切る。

「俺はナナミ殿がいない間、ここに食事を持ってくればいいんですね?」
「あ、うん・・・。迷惑じゃなかったら」

そして急に話を方向転換。

「では明日から、お食事のお世話をさせていただきます」
「ごめんね。・・・あ、メニューはおまかせにしとく」

赤い顔のまま、ふたりはどちらともなく笑った。

「・・・この鼻、どれくらいで治るかなぁ・・・」
「鼻炎や花粉症の症状が起こらなければ、二日三日で治ると思いますよ」
「う〜・・・その間に会議とか入らなきゃいいんだけど」

笑った後ウィタがそう言うと、マイクロトフが周囲を見渡す。
そして目的のものを見つけると「お借りします」と、それを手にとった。

「会議が入ったら、俺もコレで鼻を真っ赤に塗って出席します」

それを見て、ウィタは思わず吹き出した。
赤のマジックペン。本気だろうか。
いや、彼の事だ。きっと本気なんだろう。

「マイクロトフ、カッコいい」
「え・・・そ、そうですか・・・?」
「うん。そーゆートコとかすごい好き」

言った方も言われた方も、また顔が真っ赤になった。

「・・・あ」
「え、何?」

赤い顔のまま、マイクロトフが小さく声を上げる。

「・・・俺、明日から二日三日・・・ウィタ殿を独り占めできますね」

照れたウィタの強烈な張り手が、マイクロトフの背中を直撃した。




















「・・・というワケだ」
「そうか」

カミューの部屋に騎士二人。
ウィタに許可を貰い、特別にカミューには事情を話したマイクロトフ。
内心どんな反応を返されるやらとヒヤヒヤしていたりする。
が、案外冷静に返事が返ってきたので安堵の溜息を吐いた。

「マイクロトフ」
「何だ?」

カミューが抑揚のない声でマイクロトフの名を呼ぶ。
マイクロトフは物凄く嫌な予感がした。

「何があっても、寝言で惚気るなよ?」

抑揚のない声のわりに、笑顔。
そして手には鞘から抜かれたユーライア。
惚気たら切る、と言っているらしい。

「・・・善処はする。・・・しかしカミュー」
「・・・何だ」
「部屋が別々なのに、何故俺の寝言が聞こえるんだ?」

カミューの額に、血管が浮いた。

「寝言で叫んでいるのにも気付かないとはなっ!!!」

鋭い一撃がマイクロトフの頭上を掠める。
何だかとてつもなく遠慮していないのは気のせいだろうか?
剣先と、カミューの表情から溢れ出る殺気を嫌と言うほど感じる。

「ま、待てカミュー!その・・・俺は、叫んでいるのか・・・?」
「ああ、叫んでいるとも!!おかげでこちらはいい迷惑だッ!!!」

二撃目が胴に来た。
慌ててマイクロトフは飛びのく。

「お、俺は・・・何を叫んでいるんだ・・・!?」
「・・・二週間前、馬に乗って行ったデートはさぞ楽しかったろうな!」
「・・・・・・なっ!!?」
「一頭の馬に二人で乗ったんだろう、マイクロトフ!!」

カミューがキレている。
稽古のとき以上に鋭い剣。

これはヤバイ。

「確かに黙っていた俺が悪い・・・すまない、カミュー」
「今更何を!問答無用だッ!謝るなら我が怒りを受けよ!!」






















翌日。

「おはようございますウィタ殿。朝食をお持ちしました」
「あ、ありがとうマイクロトフ・・・って、ソレどうしたの!?」

オムライスを持ってきたマイクロトフの鼻は、赤かった。

「・・・切られなかっただけ、ありがたいか・・・」
「え、何?・・・あぁもうホラ、回復するからこっち来て」

呟いた言葉に、ウィタが大して詮索を入れなかったのがありがたかった。
カミューの渾身の一撃。グーで鼻を殴られたが折れてはいない。
しかしやはり鼻は腫れ上がり、真っ赤になった。

「昨日は二人とも顔が真っ赤で、今日は鼻かぁ。ホントお揃いだねー」
「えっ、お揃い・・・っ!?」

苦笑しながらウィタが薬箱からおくすりを取り出す。
が、一瞬硬直したマイクロトフはそのおくすりを思わず取り上げた。

「何?手当てできないよ?」
「あ、えーっと、その・・・」

訝しげに視線を送られ、マイクロトフはたじろいだ。

「ウィタ殿の鼻が治るまで・・・お揃いじゃ、駄目ですか・・・」

照れたウィタの強烈な張り手が、今度はマイクロトフの額に飛んだ。











後日、また寝言で堂々とこの話の喜びと照れを叫んだマイクロトフ。
そして怒り状態のカミューに本気で斬りかかられたという事件が発生する。






  ――――――強制終了。





  後書きと言う名の逃げ言葉で詫び言葉な言い訳
キリ番108ヒットのリク、マイクロトフ×主でした。
・・・何かもう、ごめんなさい。ダメダメです、ホントに。平謝り。
キレたカミューさんを書くのが一番楽しかったとか言いません(言いました)
や、やっぱりキスとか書くべきでしたか・・・?
一応カップリングなワケですし・・・ふたりはひっついてるワケですし。
なるべくヘタレてないマイクを書きたかったんですけど・・・。
とにかく、これから少し逃亡してきます。探さないで下さい。

こんなヘボ作品になってしまいましたが、よろしければお納めくださいマセ。

   〜碧乃かりん様へ捧ぐ〜

               和沙倉恵・拝





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