その日、劉備は、朝も早いうちから、やたらと気合が入っていた。
何だかもう、背後に炎が見えそうなほどに、気合が入っていた。































「さぁ、孔明! 仕事をするぞ!!」


意気揚々と告げられた言葉に、孔明は、一瞬だけ、呆気に取られた。
劉備が執務室にいること自体が、まるで奇跡。
それに加えて、今、孔明の主は何と言ったのだろう。


「我が君・・・その、今、何と?」


恐る恐る問い返す孔明に、劉備の眉が、ぐぐっと寄った。
そのまま劉備は立ち上がり、孔明のもとへと、つかつか歩み寄る。


「仕事だ! 政務をするのだ!!」


少し不満気な声を出しながら、劉備は手を伸ばす。
伸びてきた劉備の手は、孔明の腕の中にあった竹簡を、ひょいと持ち上げた。


「わ、我が君が・・・政務を積極的に・・・。これは、夢・・・?」


おかしいな、まだ仮眠から覚めていないのか、と、孔明は唸る。
と、同時に、竹簡のひとつが、びゅんっと飛んできた。
慌てて身をかわした孔明が、竹簡の発射元へと、苦笑しながら顔を向ける。


「申し訳ありません、我が君。言葉が過ぎました」


劉備は、頬を少し膨らませながら、筆を動かしていた。
その姿に孔明は、今度は、柔らかく、笑う。


「今日のぶんは、午前中で終わらせるように、お前も協力するのだぞ、孔明」


ぽつりと聞こえた小さな声に、孔明の顔は、また、苦笑へと戻った。
大方、午後から何処かに遊びに行きたいのだろう。だから、だ。


「午前中・・・は、厳しいかもしれませんが、まぁ、頑張りますよ」


あなたは、何処に、誰と。
思ったところで、孔明には、どうすることもできない。
劉備が動かす筆の音が、やけに、孔明の耳についた。










そうして、孔明は唖然とした。
目の前には、胸を張っている、劉備。


「終わったぞ」


ああ殿。あなたは、やれば出来るお方だったのですね。
そんなふうに、孔明は、心から思った。
けれど、その感動も、すぐに、消える。


「・・・仕方ないですね。午後から、お休みが欲しかったのでしょう?」


孔明が言うと、劉備の顔が、にこーっ、と、笑顔で輝いた。
その眩しさにくらりとしながら、孔明は竹簡を手に取って、苦笑する。


「わかりました。頑張りましたからね。ただし、危険なことはなさらぬように」


何処へ、遊びに行くつもりなのだろう。
気にはなるものの、孔明は、黙って頭を下げた。
竹簡を抱え、退出しようとした孔明を、劉備が見やる。


「危険なことなどするものか。ただ、昼寝がしたいんだ。お前と」


と。劉備が言った、瞬間。
孔明の抱えていた竹簡が、からからと、転がった。


「はい?」


言われた意味が、わからない。
孔明は、混乱していた。
落ちた竹簡を拾い上げながら、劉備は当然のように言い放つ。


「だから、一緒に昼寝。昼寝するぞ、孔明」


中庭に、お日様の当たる、いい昼寝場所を見つけて、と。
上機嫌で語る劉備に、孔明の思考回路は、漸く動き出す。


「我が君・・・ですが、私は、仕事が」


言った途端に、劉備に見つめられて、孔明は口を噤む。
劉備は、孔明の頬へと、両手を伸ばした。
包み込むように、孔明の頬へ触れ、そうして、口を開く。


「仮眠だって、ろくに取っていない顔だ」


言われて。
思わず孔明は、目を伏せた。


「昼寝しよう。孔明。一緒に寝よう。なぁ、孔明」


愛おしい。
愛おしい。
この人が、とても。


「・・・危険なことは、なさらぬように、と。申し上げましたのに」


じわり、と、孔明の目頭が、熱くなる。
誤魔化すように、声を、絞り出した。


「城の中で眠るんだ。危険など、何も無い」


どうしよう。
好きだ。
本当に、どうしよう。


「・・・今の私。何かもう、理性やばくて。野外でも、襲いますよ?」


瞬間に、ずさっと逃げようとした腕を、しっかりと掴む。
そのまま、身体を、ぎゅう、と。


「お、お前のことを心配していたのに・・・!!」


非難めいた主の言葉に、孔明は、笑う。


「有り難う御座います。嬉しいです。嬉しいですよ、我が君。本当に」


腕の中の主に、孔明は、囁いた。
目頭の熱さは、まだ、治まらない。


「・・・信用できん」


不機嫌な劉備を宥めようと、孔明は、劉備の頭を撫でる。
そうして、我が君、と、呼びかけた。


「我が君。私は、初めて知りました」


何を、と、訴える目線。
孔明は、抱擁を解く。


「愛しさでも、人は、泣けるんですね」


だから、と、孔明は、笑って。
この涙は、昼寝をしながら、お日様で乾かしましょう。
そう言いながら、劉備の背を、押した。
















キリ番29000のリク、水魚でほのぼの、でした。
ほ・・・ほのぼの・・・??(己に問いかけ)
す、すみません・・・!構想練ってるときは、ほのぼのだったんですが・・・!!
書いてみたら、あんまりほのぼのじゃ無いです、ね・・・。
久々のキリ番申告だったんで、うきうき張り切ったのにこのザマです;
こんなのでもよろしければ、どうぞお納めくださいマセ。

〜久輝華麗奈さまへ捧ぐ〜

和沙倉恵・拝


「寝」 ―ねましょうか―





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