目の前に、人がいる。
いや、人がいるのは、いい。ただ、問題は。































「そうか、お前も曹孟徳か」


何だか、偉そうに踏ん反り返っている、男。
その向かいに座る男も、偉そうに踏ん反り返っている。


「お前も、とはどういうことだ。お主も、曹孟徳だというのか」


踏ん反り返る男たちは、お互いに、静かな声で話している。
片方は、幾分か、楽しそうに。片方は、幾分か、不機嫌に。


「ところで曹孟徳。こちらに劉備が来ているはずだが、知らないか」


楽しそうな曹孟徳が、不機嫌な曹孟徳に、尋ねる。
不機嫌な曹孟徳は、ふん、と、鼻を鳴らした。


「お主が、劉備に何の用だ」


言うと、楽しそうな曹孟徳の目が、すぅ、と、細まった。
上機嫌に笑う、その目に、不機嫌な曹孟徳の目も、苛立ちで、細まる。


「なに、あれは、俺のものだからな。何処へ行ったのかと、思っただけだ」


不機嫌な曹孟徳の唇が、歪んだ。
何をほざく、と、小さく、その唇が、紡ぐ。


「いつ、劉備が、お主のものになった。劉備は、わしのものだ」


空気が、凍った。












一方。


「そうなんだよ玄さん! ほんと曹操どんは、遠慮ってモンがねぇよなぁ!!」


だん、と、机を叩き、ほろりと涙をこぼし、愚痴をこぼす男。
その向かいには、困ったように、けれどしっかり同意するように頷く、男。
窓から太陽の光が差し込むなか、のんびりと、机に置かれたお茶を飲んだ。

「こちらの都合などは、お構いなしですからね。わかります、玄徳殿」


言われて、机を叩いた男が、更に力強く頷いた。
くるくると、よく変わる表情だなぁ、と、向かいに座った男は、微笑む。


「しっかし、どの世界でも、劉玄徳は、苦労してんだなぁ」


曹操どんに、と、付け加えられた言葉に、微笑んでいた劉玄徳が、少し声を立てて笑った。
同じ劉玄徳なのに、お上品だよなぁ、と、もう一方の劉玄徳は、思う。
思いながら、出されたお茶を、一気に、ぐい、と、飲み干した。


「お前さんも、劉玄徳なのに、おいらとは、全然性格が違うよなぁ」


お前さんは、清冷な感じがする。ぼんやりと、快活な劉玄徳が、呟く。
言われて、清冷な劉玄徳は、目をぱちくりとさせた。


「それなのに、曹操どんには、変に執着されるんだよなぁ・・・」


目をぱちくりとさせたあと、その目を細めて、快活な劉玄徳を、見つめる。


「そちらの曹操殿も、変わり者なんでしょうね」


違ぇねぇ、と、声が返ってきて、劉玄徳は、ふたりして、笑った。
直後。


「その遠呂智とやらの影響で、俺がここに来たかもしれん、と、それは、わかった」


話し声が聞こえて、ふたりの劉玄徳の背に、異様な緊張が走った。
特に、快活な劉玄徳は、面白いくらいに、冷や汗をかいている。


「ならば、俺がふたりいるように、劉備もふたりいるのだろう。見たいぞ。是非見たい」


清冷な劉玄徳も、何だか嫌な予感がした。
なんだろう。冷や汗が止まらない。いや、何が起こるかなんて、予想できるけれども。
こういうときの嫌な予感というのは、的中するものなのだ。


「お主に、可愛い劉備を見せるのは癪だが、・・・そちらの劉備に、興味はある」


来る。奴らが来る。
ふたりの劉備は、どこかに隠れる場所がないか、と、周囲を見渡した。


「劉備」


不機嫌な曹孟徳が、呼びかけると同時に扉をあけた。
ここ、私の館なんですけど、と、清冷な劉玄徳は思ったが、どうにもならず。
隠れる場所も見当たらず、思わず快活な劉玄徳と、手を取り合った。


「・・・・・・・・・」


扉を開けた、ふたりの曹孟徳が目にしたのは、手を取り合っている、ふたりの劉玄徳。
楽しそうな曹孟徳の目が、更に楽しそうに歪む。


「随分と、毛色が違うな。曹孟徳」


その言葉を受けて、不機嫌な曹孟徳の目が、同意を示した。
ちらり、と、ふたりの劉玄徳を見やる。


「うわ、こっち見てるぜ玄さん・・・」


快活な劉玄徳が、小さく清冷な劉玄徳に呟く。
清冷な劉玄徳は、快活な劉玄徳の肩を軽く叩き、意を決したように、その前に立った。


「曹操殿。入り口に、案内のものは、おりませんでしたでしょうか」


暗に、勝手に上がりこんでくるとは何事だ、と、清冷な劉玄徳は、言っている。
楽しそうな曹孟徳が、ほぉ、と、頬を緩めた。


「案内はいい、と、言ったのだ。わしとお前の仲だろう、劉備よ」


不機嫌な曹孟徳が、つ、と、一歩前へ歩み出る。
同時に、援護するとばかりに、快活な劉玄徳が、清冷な劉玄徳の隣に、立った。


「でもよぉ、曹操どん。急に来られると、ほら、身だしなみとかさ」


特においらなんか、普段から全然出来てねぇからさ、そういうの。
身振り手振りで、極力明るく、快活な劉玄徳が、言う。


「身だしなみか。どうせ乱れるんだ。別に問題ないだろう?」


それをあっさり言葉で斬った、楽しそうな曹孟徳。
快活な劉玄徳が、固まった。


「お主のところの劉備は、なんとも苛めたくなるな」


不機嫌な曹孟徳の、機嫌が良くなっていく。
清冷な劉玄徳は、それを敏感に感じ取り、固まった劉玄徳を見やった。


「お前のところの劉備は、妙に服従させたくなるな」


楽しそうな曹孟徳は、これ以上ないほどの笑顔を見せる。
固まった劉玄徳は、ぎぎぎ、と、無理矢理首を動かして、清冷な劉玄徳を見つめ返した。
同時に、真剣な表情を浮かべ、ふたりの劉玄徳は、同じことを、思った。


「「逃げるぞ!!!」」


ふたりの劉玄徳が、身を翻し、窓から飛び降りた。
高さは、そんなに無い。
見事に着地し、走り出そうとした瞬間、物陰から、劉備殿、と、呼ぶ声がした。


「劉備殿! おや、そちらも、劉備殿ですかッ!」


現れた声の主に、固まっていた劉玄徳の表情が、明るくなる。
一方の劉玄徳は、不思議そうな顔をした。


「玄さん、荀ケどんだ。この世界にもいるんだろ、荀ケどん」


言われ、不思議そうな顔をしていた劉玄徳が、え、あ、まぁ、と、頷いた。
こんな、妙に親しみやすい人ではなかったけれど、とは、言わないでいたが。
そんなふたりの劉玄徳に、荀ケが、にっこりと笑った。


「何だか、知らない間に、よくわからないことになっておるようですがッ!」


にっこり笑い、背筋を伸ばし、ピィ、と口笛を吹いた。
そうして現れたのは、馬。
馬呼びが出来るのか、と、不思議そうな顔をしていた劉玄徳が、驚く。


「とりあえず、この荀ケ。おふたりを、ふたりの魔王から、お護りいたします」


現れた馬に跨りながら、何だか妙なことになった、と、ふたりの劉玄徳は、思う。
何で、曹操の腹心である荀ケに、助けられているのだろう、と。
逃げようとしているところで、渡りに船なのは、確かなのだが。


「いや、だって、よくわからないことになってるんなら、どさくさで少しくらいは、」


良い思いというか、両手に花というか。
そこまで言って、荀ケは、アイヤー、と、頬を赤らめた。
尋ねたふたりの劉玄徳は、顔を見合わせながら、馬を走らせた。















「あれは、お主の世界の荀ケか。随分と面白い人間だな」


一方の、取り残された曹孟徳たち。
再び不機嫌になった曹孟徳に、楽しそうな曹孟徳が、ははは、と、笑った。


「あいつは、俺の幕下で、一番の劉備好きだからな」


まぁ、俺の気持ちには、到底及ぶまいが。
自信満々に言い切る曹孟徳に、不機嫌な曹孟徳が、鼻を鳴らした。


「しかし、お主が直線的に言い過ぎるから、抱き損ねたではないか」


言って、横目で、楽しそうな曹孟徳を、伺う。


「どちらをだ?」


楽しそうな曹孟徳も、不機嫌な曹孟徳を、横目で伺った。
不機嫌な曹孟徳は、答えない。楽しそうな曹孟徳も、何も言わない。
けれど、同時に、笑みを浮かべ、ふたりの曹孟徳は、同じことを、思った。


やはり、自分の劉玄徳が、一番だ、と。













キリ番59000のリク、蒼天・無双の曹劉(+荀ケゲスト出演)話でした!
お待たせいたしました・・・! お待たせさせすぎました・・・・・・ッ!!(平伏)
ダブル曹劉と荀ケ、のはずが、ダブル曹劉←荀ケ、に・・・。
書いてると何度も蒼天ソソさまが異様に動き出し、蒼天ソソさまの力を思い知りました(遠い目)

オロチ設定を組み入れてはみましたが、時代的には劉備さんが曹操のもとにいるあたりです。
劉備さんたちがどこに逃げたんだとか、色々と深くはつっこまずに読んでいただけると、嬉しいです・・・。


何だかハチャメチャ話ですが、よろしければ、お受け取り下さいませ・・・!!


〜KANさまへ捧ぐ〜

和沙倉恵・拝


「二」 ―ふたりの―





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