はて、この少年。
劉備は、首をひねった。































「部外者は立ち入り禁止だぞ」


首をひねっている劉備に、少年が言い放つ。
少年の言い分に、劉備は苦笑を浮かべた。


「そうなんだけど・・・ここで待ってろって言われたから」


すかさず、「誰に」と、少年が問う。
問われた劉備は、困ったように周囲を見渡した。
お金持ちの通う、エスカレーター式の私立学校。
膨大な敷地なので、ヘタに動けないのだ。


「・・・私の、先輩、というか。担当の先生というか・・・」


劉備は教育実習生である。担当は、保健。未来の保健室の先生だ。
保健の先生にも勿論教育実習はあるわけで、先生の卵として頑張っている。
が、問題なのは、劉備を指導すべき、担当教師である。
本当に保健の先生なのか、とか、つい思ってしまうほど破天荒な男。


「曹操先生、っていうんだけど・・・」


癒しの勉強よりも、身体の勉強ばかりしてそうな男である。
それでも確かに、腕はいい、のだと、思う。
そんなことを考えていた劉備。少年の眉根が、きゅっと寄った。


「そいつなら、」


少年の声が、劉備の耳へ届く。
劉備が「知ってる?」と尋ねると、少年はそっぽを向いた。


「・・・保健室。保健医の徐庶を、病院勤務にさせようと説得しに来ている」


そっぽを向きながらも発せられた言葉に、劉備の目が丸く見開く。
少年が、曹操のことを知っていたことに驚いたのではない。
少年の口から、保健医として出てきた人物の名前に反応したのだ。


「徐庶! ここに勤めてたのか!! うわぁ、懐かしい」


先程とは一転、急に嬉しそうに笑う劉備を、少年が凝視していた。
少年は、不思議な人間だ、と、劉備をひたすらに凝視する。


「あ、あの。もし良かったら、保健室までの道順を教えてもらっていいかな」


劉備を凝視し続ける少年は、錯覚か、と、目をこすった。
なんていうか、・・・きらきら、しているのだ。
目の前で笑うこの顔が、何故だかきらきらして見える。


「・・・痛」


と、同時に、胸までが痛い。
きゅう、と締め付けられたかと思うと、心臓がどくどく跳ねる。


「え、どっか痛い?」


少年の小さく呟いた言葉に、保健医の卵である劉備は、敏感に反応する。
ひょい、と腰をかがめて、少年の顔を覗き込んだ。


「大丈夫? えっと、曹丕、くん」


覗き込まれて、名札を見た劉備から名前を呼ばれ、曹丕の顔が、赤くなる。
今まで、曹丕はこんな現象に陥ったことがない。
目の前の人間はきらきらするし、心臓はどきどきするし、顔は赤くなるし。
何なんだ、これは、と、曹丕は心の中で悪態をつく。


「何かちょっと顔も赤いな・・・。風邪かな」


気付かなかったなんて、迂闊、とか言いながら、劉備の顔が曹丕へと接近する。
こつん、と、おでことおでこがぶつかった。
予期せぬ劉備の急接近に、思わず曹丕が固まる。


「・・・あ、ごめん! いつも弟にはこうしてたから、つい」


曹丕の様子に、劉備が慌てて顔を離す。
が、曹丕の腕が、そのあとを追った。


「曹丕くん?」


劉備の声を聞きながら、曹丕の腕は、劉備の首の辺りへと伸びていく。
そのまま、きゅぅ、と、劉備へと抱きついた。
何が何だかわからない劉備は、先程の曹丕と同じく、固まる。
だが曹丕は曹丕で、自分の行動に激しく動揺していた。


「・・・しんどい?」


が、劉備は、曹丕の行動の意味を、勝手に解釈したらしい。
抱きついてきた曹丕へと手を伸ばし、ひょい、と、抱き上げる。


「保健室、行こっか」


抱っこされた曹丕は、真っ赤な顔のまま、劉備を見た。
わけのわからないまま、無意識に行動してしまったのだが、何ていうか。
抱きついたら抱っこされて、でも何か今、幸せだ、とか、思うのだ。


「・・・名前」


ぽつり、曹丕が言う。
ん? と、軽く首を傾げる劉備へ、もう一度。


「お前の名前は、何だ」


問われて、劉備は、あぁ、と、声を出す。
そうして、にこりと笑いながら、告げた。


「劉備。教育実習生で、保健の先生の卵」


きらきら、笑っている。曹丕は、思う。
あぁなるほど、これが、きっと人を好きになるということだ。


「・・・教育実習生・・・」


小さく呟いて、少しの間を置いてから、曹丕の顔が強張った。
劉備が、不思議そうに曹丕を見る。
曹丕が、強張った顔のままで、劉備を見た。


「父に、何かされていないか」


父、と、劉備は尚も不思議そうな顔をした。
そうして、曹丕の顔を、じぃ、と、見る。
更に、改めて曹丕の胸についている名札を見る。


「曹操先生の、息子?」


劉備が言うと、曹丕は甚だ不本意そうに、頷いた。
最初に見たとき、何か引っかかりを覚えたのはこのことか、と、劉備は思う。


「大丈夫。何もされてない(させてない)から」


その答えに、曹丕はいかにも信用していない目をした。
息子にもこんなことを言われるだなんて、曹操の日頃の行いが見て知れる。
劉備は、こっそり苦笑いを浮かべた。


「セクハラ撃退法、身につけたから。本当に大丈夫」


思えば、曹操に付いて最初に学んだことって、セクハラ撃退法だったなぁ。
そんなことを思い出して、劉備の苦笑が深くなる。


「ならいいが・・・。そうだ。劉備、先生。実習が終わったら、うちの学校に赴任すればいい」


そうしたら、セクハラを受けずにすむ、と、曹丕。
そう? と、劉備は笑う。それに、と、更に曹丕は続ける。


「私は、気に入ったものは手元に置きたい主義だ」


その言葉に、一瞬劉備の表情が固まった。
やっぱり、親子・・・と、心の中で呟く。


「・・・とりあえず、保健室行こうね」


道順教えてくれる? と、劉備に微笑まれては、惚れた弱みか、曹丕は従うしかない。
しかし曹丕は、あの曹操の血を引いているのだ。ただでは引かない。
劉備に抱っこされているこの状況を、有効利用しない手はない。
そんなわけで曹丕は、保健室までひたすらに劉備の耳元で、劉備を口説き続けた。
劉備が、やっぱり、親子・・・ッ! と、再び心の中で叫んだのは、劉備以外誰も知らない。
















キリ番35000のリク、教育実習生パラレルで曹丕×劉備でした!
曹丕の恋。ほのぼの路線を目指していたのに、どうして最後はこうなるのか・・・。
やはりセクハラ魔人曹操の血は濃かったようです(責任転嫁)
あぁもう、頂いた素敵絵と全然釣り合わない作品でほんとすみません・・・!!
こんなのでも宜しければ、どうぞお納めくださいませ・・・!

〜亀でんさまへ捧ぐ〜

和沙倉恵・拝


「恋」 ―こいごころ―





女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理