疲れた! と、声がした。
政務のねぇ国に行きてぇ! とも、声がした。































じぃぃぃぃぃぃ、と、まるで、音がするような凝視。
あぁ、視線ってのは本当に刺さるもんなんだなぁ、と、劉備は思う。


「・・・なぁ、馬超」


居心地が悪くなって、劉備は、視線の主に声をかける。
すると視線の主は、更に強い視線を劉備へと寄越した。
どうやら、視線で返事をしたらしい。


「・・・・・・・・・」


視線が、痛ぇ。
ただでさえ、政務のため執務室に閉じ込められているというのに。
劉備は、内心で泣いた。


「おめぇ、仕事はいいのかい」


それでも劉備は、視線攻撃から何とか気を紛らわせようと、馬超へ声をかける。
ちらりと馬超を見やると、視線が、劉備の目にざくりと刺さった。


「・・・本日は、あなたの、警護を」


劉備の目を見ながら、馬超が言う。
警護、と、劉備は呟いた。
部屋に閉じ込められ、政務に追われる自分の、警護。


「あぁ、つまりは見張りか」


おいらが逃げないように、ってかー、と、納得し、劉備は伸びをする。
その瞬間、刺さっていた視線が、ふと緩んだ。


「?」


急に刺さっていた視線が緩み、劉備は思わず馬超を見る。
馬超は、目を見開いて、どこか驚いたように、劉備を見ていた。


「な、何でぇ?」


滅多にお目にかかれない馬超の表情に、劉備も驚く。
馬超の口が、小さく動いた。
何を言ったんだと劉備が目と耳を凝らすと、再び馬超の口が動いた。


「見張りではありません。警護です」


真顔。再び、視線が劉備へと刺さる。
見張り、といわれたのが、余程心外だったのか。
馬超は真顔で、劉備に、そう告げた。


「じゃあ、おいらが脱走しねぇように見張ってるわけじゃねぇんだな?」


しかし劉備は、刺さる視線にもお構いなしで、馬超のほうへと身を乗り出す。
馬超が真顔のまま頷くと、よっしゃ! と、喜びの声を上げた。


「もぅ肩が凝って仕方なかったんだよなー。気晴らしにでも行くか!」


腕を振り回しながら扉へ向かう劉備の背後に、ぴたりと馬超が付いた。
そして、劉備の背中に刺さるのは、視線。
喜びに満ち溢れていた劉備の動きが、固まる。


「・・・馬超」


くるりと劉備が向きをかえ、馬超へと向き直る。
再び馬超の視線が、劉備の目へと刺さった。


「ついてくんのか?」


尋ねられたことに、さも当然と、馬超は「はい」と答える。
その途端、気晴らしになんねぇ、と、劉備は崩れ落ちた。


「私は」


崩れ落ちた劉備の前に、馬超が跪く。


「あなたの、警護を。あなたの行くところには、どこにでも、ついていきます」


劉備が、あぁそーかよ、と、顔を上げた。
馬超と、目が合う。


「私は、あなたを見張らない。ただ、警護を。あなたの、警護を」


おや、と、劉備は、思う。
馬超の、視線。
刺さるほどの、視線。
これは。


「あなたが政務の無い国に行くなら、私も行く。そこで、あなたを護る」


哀願、いや、縋るような、そんな視線。
置いていくな、と、そう縋る、視線。


「私は、もう、失いたくない」


あー、と、劉備は頬をかいた。
昨日、政務に疲れて、政務のねぇ国に行きてぇ、と言った気がする。
どうやら、馬超に、聞かれていたようだ。


「だからおめぇ、ずっとおいらのこと見てたのか」


政務の無い国に行こうとするなら、ついてくるために。
どんな些細な動きでも、見逃さないように。しっかりと。


「・・・・・・おめぇさぁ、」


思わず、劉備が苦笑する。


「さては、不器用だろ。いや、不器用だって知ってたけどよ」


ここまで不器用だとはなー、と、劉備は笑い出す。
笑いながら、劉備は馬超の肩を、ばしばしと叩いた。


「ま、その不器用な一生懸命さが、おいらは結構好きだけどな」


言われ、馬超の表情が、一瞬だけ、動揺した。
けれどすぐに、その口角が、僅かに上がる。


「よっし、じゃあ今日はおめぇと一緒に気晴らしだ。遠乗りするか、馬超!」


しっかりついてこいよ、と笑う、劉備。
馬超が、手を伸ばした。
劉備の背中へと、腕を回す。


「どこまでも、お傍に」


状況を飲み込めていない劉備の耳元で、言った、瞬間。
ズガァァァン、と、扉の開く音、にしては有り得ない音がした。
そんな有り得ない音を立てて扉を開いた人物が、部屋の前に立っていた。


「馬将軍・・・何をされておられるのかな・・・」


目つきが、やばい!
今の彼を見れば、誰もがきっと、そう思うだろう。


「ちょ、趙さん・・・?」


恐る恐る、劉備が声をかけると、仁王立ちをしていた趙雲は、にこりと微笑んだ。
ちなみに、目つきはやばいままである。


「ご主君、今日も思わず襲い掛かりたくなるほどご機嫌麗しく」


おめぇのご機嫌は、見た感じ全ッ然麗しくねぇよなぁ・・・。
そんなふうに劉備は思ったが、趙雲の視線はすぐに、馬超へと向けられた。
馬超も、劉備から手を離し、趙雲に向き直る。


「馬将軍、ご主君は私のものになる予定ではあってもあなたのものではないのだが?」


ぴり、と、空気が張り詰めた。


「趙将軍、少なくとも今日は、私のものだ。これから、ふたりで遠乗りに行く」


ばり、と、空気が破れた。
直後に、乱闘。


「・・・やっぱ、ひとりで気晴らしすんのが一番か」


はーやれやれ、と、劉備が執務室をあとにするのは、それから数分後の話。
乱闘していたふたりが、それに気付くのは、更にそれから数分後の話。
そして劉備が、ふたりに発見されるのは、更に更に数分後の話で。


「あーもー、わかったよ! おめぇらと一緒に寝るし遠乗りにも行く!! これでいいだろ!」


と、劉備が何故かふたりをなだめる羽目になるのは、これまた更に更に更に数分後の話。
















キリ番46000のリク、蒼天航路の馬超×劉備か趙雲×劉備な話でした!
出来上がるのが遅すぎです(土下座)
馬劉にするか趙劉にするかで悩んで結構な日数が経過。
そして作品自体書きあがっても、タイトルが決まらないという状況。
本当にお待たせしました・・・!!
よろしければ、お納めくださいませ・・・!

〜みづきたかやさまへ捧ぐ〜

和沙倉恵・拝


「傍」 ―そばに―





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