[リロード]
BGM : Aria;GOLDBERG-VARIATIONEN(J.S.Bach)
夜道に光を落として、古い教会の扉が開いた。

家族連れや恋人らしいカップル、友人同士や
その複合した大小の人の固まりが、夜道に流れはじめた。
その流れに逆行するのは意外にも簡単だった。「おい、もう終わりだろう」
どんどん人気の無くなる会堂に進んでいく連れに不安を訴える。
「ミサがひとつ終わったようだね」
「いいのか?」
「まだ深夜にミサがあるから扉は閉じないよ」

…んな事、ドコに書いてあったんだ。

「扉の脇に張り紙あったろ?」
「スペイン語なんか知るか!」
実は英語でも併記してあったのだが、黙っておく。

白川が螺旋階段の入口を見つけた。上に延びている。
「鐘楼かな…登ってみようよ」
「ヤだ…!」
こういう時の白川に拒絶の返答をしたところで意味をなさないのだが、
一応、意思表示はしておく。

階段の中は黄色い豆電球がところどころに光っているだけで
相当暗い。

「おい…」
「ほらおいで、置いて行くよ?」

石組みに取り囲まれた暗く冷たい階段をぐるぐる登っていくのだけれど、
登っても登っても心細い豆電球の光が現れては背後に消えていくばかり。
冷たい石の壁を時々探りながら、ただ一心に前の背中を追うのだが遅れがちで、
ときどき振り返ってはくれるのだが、ともすると螺旋の柱影に見えなくなってしまう。
そうなるとただ石の階段を踏みしめる音だけが響いて、寂しいことこの上ない。
石の壁は厚く、他の物音は何も聞こえてこない。
世界はどうなってしまったのか…
オレとコイツだけを残して消えてしまったのだろうか?
等間隔に響く靴音だけが少し不安を和らげてくれるけど、
それさえも姿を見失えば急速に遠ざかる気がする。

「オイ待て…!」

そのまま置き去りにされそうな、もうどこにも戻れずひとりきりになるような
ふいにそんな妄想に襲われて緒方は声をあげた。
足音が止まる。

待ってくれているのだろうか白川は…
それとも何か企んでいるのだろうか?

心臓の音が聞き取られるんじゃないかと思いながら気合を入れて前に進んだ。

「少し休むかい?」
タタンと駆け下りた音がしたところをみると、思った以上に先んじていたのだろう。
見上げると手を差し伸べている。
さっきまでそれを待っていたような気分だったはずなのに…
いざ目の前に出されるとやはり素直になれない。
振り払って黙って歩を進める。
白川は苦笑して緒方の腰に手を回した。

「一緒に行こう」

緒方を見て微笑む。緒方はぷいとそっぽを向いた。
どうせ逃げられないのでそのままにしているけど、別に応諾したわけではない。
どうでもいいけど石壁に声が響いて白川の声に包まれた心地がした。
息があがる。鐘楼の頂上は吹きさらしでもの凄く寒かった。

着いた直後は汗ばんでいたくらいなのに、たちまち冷えて緒方はくしゃみをした。
「大丈夫?」
親切そうにのぞきこむ白川に当り散らす。
「見て判らんか!」
ブルッと震える緒方を両腕で抱きしめる白川。

「寒い?」
「オマエは寒くないとでも言うのかッ」
「ウン、寒くない…」
「異常だな…!」
「こうしてれば…」

黒い瞳にじっと見つめられて緒方はいたたまれなくなる。
横をむいた緒方の耳にそっと囁いた。

「しよっか…?」

!ココでか?!今からか…ッ?

「したくない?…温まるよ」

そんな事のために、オレは足がガクガクになるまで登らされたのか〜っ

「もうすぐ下でミサが始まる…
…聖歌に包まれながら背徳行為に耽ろう」

天使の微笑み、ケガレも知らないよーな顔で白川はさらさらと
緒方を剥き始める…。

…バッ…馬鹿!
…のッバチ当たり〜っ
…何を考えてるんだキサマー!!!!

意外にもけっこー敬虔なフシもあるらしい緒方十段…。

……あぁッ…超音速で逃げ出したいッ…

だが、長い冷たい階段は緒方の足の自由をほど良く(?)奪って、
逃げるどころか、きっちりと、白川の足にからまってしまうのだった。
接触すると、布を通して肌の温もりが感じられる…。
白川が笑う。

「積極的なんだな、今夜は。寒さのおかげかな…?」
「馬鹿ッ…こんな冷たい所でやって痔になったらどーしてくれる〜っ?!」

抱きすくめられた緒方が必死で抗議すると、
白川はプゥとむくれた。

「ったく…何のためにそのコート、プレゼントしたと思ってんだよ?!」
「あぁ?」



[〜つづく〜]


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